↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/28

第3話 衝動的に

 したいこと、してあげたいこと。

 クローデットさんに言われたことを、改めて考える。


 逸りそうな気持ちを、落ち着けるために。


 したいこと、これは能動的に自分に何かできることはあるのか、という意味。


 この村で俺が出来ると思うこと、それは見つかっているのか?

 それが、この問いの真意である。


 この問い掛けに、俺は無いと明確に答えを出した。


 元々、それが見つからないから、方々に聞いて回っていたのである。


 それに対して、みんなも無いと答えていた。

 ……切ないが、ハッキリしているだけ良い。


 では、次に考えるべきは、してあげたいこと。


 それは、ある意味で受動的で、誰かの不足を補ってあげられるのか、という意味。


 直接的にプラスになることはできなくても、間接的になら誰かを助けてあげられるのではないか?


 例えはちょっと悪いが、糞が肥料になるみたいな。


 それを確かめるには、誰が畑を耕して(仕事をして)いて、肥料(ちょっとしたこと)を求めているか、それを知る必要がある。


 つまりは、村と人を見て回る必要があったのだ。




 少し冷え込んできて、歩いていると冬の近付きを感じる。


 息を吐くと僅かに白くて、フードをより深く被った。 

 ……温かい、ホッとする。


 このフード付きの外套は、占い師になりたいと駄々を捏ねた俺に、ばぁやが繕ってくれたもの。

 俺の背が伸びる度、何度も仕立て直してくれた。


 これがあったから、寒さや人々の視線を凌いで旅ができた。俺の命を守り続けてくれた外皮、形見とも言える代物。


 ……ただ、その殻に引き籠もっていたのかもしれない。


 改めて村を見ると、初めて来た時と同じように感じたからだ。

 村を覆う、重く溺れるような空気を。


 自分のことで手一杯になって、それすら見えなくなっていたが、改めて実感する。この村の住人、亡命者達は未だ悲しみの只中にある、と。


「寒い、な」


 身体もだが、何よりも心が。


 歩いている人、仕事をしている人、みんなが俯きがちだ。事務的なやり取りしか行わず、多くの人がいるのに声が聞こえない。


 まるで通夜の会場だ。

 討たれた女王と、自身の身内達の。


 そして、納得する。

 クローデットさんが信望を集め、リーダーになったのかを。


 みんな、凍えていた。

 だから、篝火みたいな温かさが欲しかったんだ。


 クローデットさんの明るさは、それに相応しかったのだろう。



「ですわ~、ですわ~、なのですわ~! 皆さん、おご飯の時間でしてよ~!!」



 軍を率いていたジラール伯譲りの、大軍の中でも全ての人に聞こえる声。


 その声量の持ち主だからか、クローデットさんは毎回、飯時にあの大声で村全体へと食事ができたことを伝える役目を買っていたのだ。


 よく通る声で昼食が出来たことを叫んでいる声に反応し、皆は俯いていた顔をあげた。


 皆、表情が明るくなって、ほんのりと笑みを浮かべている。元気を、クローデットさんから分けて貰っていた。


 勿論、俺もその中の一人だった。


「先程ぶりです、クローデットさん」


「まあ、ジルベールさん! どうぞとうぞ、ジルベールさんには特別たくさんスープを装って差し上げますわ!!」


「不公平なのは、良くありませんよ」


 俺の言葉に、周りが少し騒めく。

 少し笑いが漏れ出てるから、悪い雰囲気では無い。


「見て、クローデットさんったら色気付いてるわ」


「まあ、気持ちは分かるかな。いつもフードを被ってるけど、脱げば可愛い顔が見れるし」


「ワタワタ走っているのを見ると、少し癒されますわよねー」


 ただ、話のネタにされた俺とクローデットさんは、揃って顔を赤くすることとなった。


 周りの人は全員が女の人、それも全員が年若い。

 ここに居る亡命者の殆どは、親が王に殉じた貴族の子供だ。


 だから、この空気感も然もありなんだが、そのせいで学校の教室で友達との仲を揶揄われた時みたいだ。


 居心地が悪く、ソワソワして落ち着かない。


「っ、ワタクシはともかく、ジルベールさんを揶揄うのではありませんわ!!」


 でも、直ぐにその一喝が、ヒソヒソ話ごと居心地の悪さを吹き飛ばした。


「もう、図星を突かれたからと怒らないでくださいな」


「ごめんて、そんな怒らないでよー」


「ワタクシだけでなくて、ジルベールさんにも謝ってくださいまし!」


「それは……そうですわね。ふふ、ごめんあそばせ?」


「ごめんねー、クローデットをイジメたくなっただけなんだよー」


「あっ、その、大丈夫です!」


 俺の返事に、"かわいー"などと声を揃えられて、思わず身を捩った。


 むず痒くて、妙に気まずい。

 フードを被ったままだから、困った表情に変わっている顔は見られていないだろうが。


「もう、本当に仕方のない人達ですわ!」


「まあ、多分そのうち慣れますから……」


 怒ってくれているクローデットさんに癒されつつ、手渡してくれたスープを受け取る。


「慣れてなどいけませんわ。不届な女子相手に、怒る練習をしておいてくださいまし」


「あはは、それはその内に」


「もう、お優しいことっ。ジルベールさん、ワタクシ以外の女子に隙を見せてはなりませんことよーっ!」


「はいな」


 若干様子がおかしい言葉を背に受けながら、みんなから少し離れたところに腰を掛け、渡されたスープを食べ始める。


 食事は、やや寂しいがこれだけ。

 現在はどこの国も悪天候による食糧難で、パンは貴重品だから。


 イスペリア北部は山岳が広がっており、農墾に適していない。

 だが、その分牧畜が盛んである。


 このスープにも、羊の肉が多く使われている。

 なので、クセはあるが決して味は悪くない。


 ただ、ちょっと物足りなさを覚えるのは事実で……。


「ん?」


 そこで、ようやく気が付いた。

 あっ、これじゃねってことに。



「あのー、すみません」


「え? えっと、確かネイ女爵の……」


「ジルベール・ネイです」


「だ、だよね!」


 取り敢えず、近くにいた女の子に話しかけた。

 一応、行動に移す前に聞き取りだけ行っておこうと思って。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」


「えっ、私の財力とか? うちの家はイスペリアと交易してたから、一応ある程度は貯蓄とコネもあるし、あなたのことは養ってあげられると思うけど!」


「違う違う」


 ここでいきなり、あなたお金持ってるんですかと聞き始める奴は、明らかに禿鷹か何かの類だ。


 あと、お金持ってることを明かさないでほしい。

 色々危ない、本当に。


「ご飯、美味しいけどちょっと足りてなくないかなって思ってさ」


「あー」


 いきなりの問い掛けだったが、目の前の子は屈託なく頷いて。


「食糧難っていうのは分かるし、食べ物の値段が高騰してるのも確認してる。けど、やっぱりねー」


 仕方ないと言い聞かせつつも、お腹はやっぱり減るからね、と頷いて同意を示してくれた。


 それに、やっぱりと思った。


 その意見が総意というわけじゃないけど、考えてたことの方向性は間違ってはいないはず、と。


「ありがとう、参考になりました!」


「よく分からないけど、どういたしまして?」


 方向性を見つけた、してあげたいことの方向性を。


「よしっ、行くか!」


 すると、いてもたってもいられなくなった。

 してあげたいことが、したいことに変化していくのを感じる。


「え、どしたの急に?」


「急ぎの用事ができたんです!」


 そのまま、俺は駆け出していた。

 久しぶりに、活力が身体に戻ってきた気分だ!


「ご飯、食べかけだよー!」


「食べといてくださーい!」


「えっ、えーーーーーっ!?」



 そのまま、俺は森へと駆け出していた。

 自分にできそうなこと、見つけられたのが嬉しくて。


 けれど、なぜ森なのか?

 一体、何をしにいくのかと言えば……。


 ──どんぐりを、拾いに行くためであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。