↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/29

第2話 燻り

 山越えから、一週間が経った。


 相変わらず村は建設中だが、俺は村唯一の男性で、貴族ということも相まって一人部屋を用意してもらえた。


 他の人達は、たとえ貴族であっても相部屋を強いられているのだから、俺は厚遇されているといって差し支えないだろう。


 ……ただ、それと関連して、ちょっと困っていることがあった。



「何か手伝えることはありませんか?」


「男性の手を煩わせるようなことなど、何一つありません!」


 それは、時間があると両親やばぁやのことを考えてしまうから、何か手伝おうとした時のこと。


 村の建設を何かしら手伝いたいと思って声をかけて回ったが、大体が上記の謝絶を受け、諦めることとなった。


 俺の力を借りなくても大丈夫、そういう彼女達からは、何かプライドのようなものを感じる。


 そこで、最近は意識していなかった、男女の役割が逆転している世界だったことを思い出した。


 貴族として、家でばぁやとお父様にぬくぬく育てられてて忘れ去っていたが、世間では男女の役割が分たれていたのだと。


 女性が仕事をし、男性が家を守る。

 この世界では、それが正しいとされている。


 それに気がついた時、どこか落ち着かなくなった。


 前世の価値観から、お前は役立たずだと指弾されている気分になったのだ。


 事実として、現状俺は役立たずだ。

 何をするでも無く、食べて寝てを繰り返してる。


 申し訳なくて、恥ずかしい。

 紛れもない穀潰し、それが今の俺の正体だから。




 そうして、メンタルがヘラりそうになりながら辿り着いたのは、比較的会話することの多いクローデットさんのところであった。


 皆の代表として、諸所を取り纏めで忙しい彼女に時間を割かせるのは申し訳ないが、ここならば猫の手でも借りたいと要望している所の話が来ているかもと思って。


「すみません。俺にできそうなことって、何かありますか?」


「こ、ここ、これはこれはジルベールさん、よくぞお越しになられましたわ! お時間がお有りならば、是非ワタクシの話し相手になってくださりますか!?」


「は、はい……」


 比較的、話のすることが多いクローデットさん。

 ただ、時間を経るにつれて、彼女はだんだんと様子がおかしくなっていった。



 クローデット・ジラール、ジラール伯爵家の長女。


 ガリティア東部のジラール伯領を治める名家で、蛮族の侵入を何度も打ち払っているガリティアの軍事貴族だ。


 大公叛逆の報を聞いた際には、彼女は母からイスペリアに向かうように言いつけられたらしい。


 曰く、ガリティア貴族の義務を果たし、王家への忠節を示そうと思う。

 しかし、あちらは準備して暴挙に及んだが、こちらは準備の間もなく動かねばならない。

 恐らくは、生きては帰らない、と。


 ジラール伯はその後に僅かな手勢で王都を急襲するも(徴兵している暇はなかった)、既に女王を弑して玉座についた大公が、これを籠城で迎え撃つ。


 兵力が足りず、王都の城壁は高く、攻めあぐねたジラール伯は足を止めてしまった。奇襲に、失敗してしまったのである。


 更に大公は、教会のガリティア総司教にジラール伯の破門を要請。


 これを受諾した教会側の宣告により、ジラール伯は率いていた兵士たちの士気が地を這い、打って出てきた大公軍相手に善戦するも、衆寡敵せず無念の戦死を遂げたらしい。



 お互いの身の上話に及び、彼女のを聞いた時、他人事とは思えなくて。


『っ、失くした者同士、支え合っていきましょう!』


 無駄に感傷的になってしまって、半泣きで手を握ってしまったのがいけなかったか。


 それ以後、クローデットさんは俺に話しかけられる度に、様子がおかしくなってしまった。


 多分、前世の価値観的に、俺は泣いている女性そのものという立ち位置だから。放ってはおけないが、扱いに苦慮しているのだと思う。


 ……本当に申し訳ない。



「そ、それで何でしたかしら? ジルベールさんに、何かできそうなこと、ですの?」


「はい、どうにも居処が悪くて……」


 クローデットさんは、厨房へヤギのミルクを持ってくるようリクエストした後、腰を掛けて相談に乗ってくれ始めた。


 俺の居処が悪い、という言葉に少し反応を示して。


「……なるほど、確かにするべき事柄が見つからないのならば、居場所がなくなったように感じられるでしょう。それで、お悩みなのですね?」


「はい……」


 途端に真面目な受け答えをしてくれながら、クローデットさんは頷いた。


「ですが現状、本当に手は足りているのです。いま必要とされているのは専門の木こりと木材の加工を行える職人くらい。ですので、無聊を託っているのは、ジルベールさんだけではありませんのよ?」


 そう、無情な正論を持って返答したのだった。


 ……まあ、そうか。

 欲しい人材でないのに、雇ってくれと迫られても困るだけだ。


 村の建設は途上ではあるが、素人の俺があれこれしても混乱させるだけ。


 言われて、納得する。

 納得したら、諦観がやって来た。


 やっぱり、俺は役に立たないのか、と。


「じ、ジルベールさん? もしかしなくても、落ち込まれておりますの!?」


「い、いえ、俺、男なので。落ち込んだりなんて、しません」


「……そんなこと、ありませんですわよね?」


 クローデットさんが、思わずといった感じで目を覗き込んでくるから、反射的に顔を逸らした。


 これ以上、恥を見せたくないと思って。

 ……女々しくなったな、と自嘲しながら。


「顔を逸らされた!? ま、まさか、踏み込みすぎて嫌われてしまったのですわ!?」


「あっ、いえ、違います」


 ただ、そんな感傷は、クローデットさんの声で掻き消された。


 逸らして直ぐだが、あまりにショックを受けてそうな声を受け、思わずクローデットさんの方を向くと、白目を剥いて泡を吹きそうな姿のクローデットさんが居て。


「違いますからね!!」


 そんなにショックだったの!?


 そのことにビビりながらも、必死に違うと主張し続けた。


 この村で唯一、話し相手がクローデットさんだから。絶対に、嫌いになんてなるはずがないということを、必死に言い聞かせながら。


 ……何してるんだろうな、俺。






「ふー、ふーっ、ふーぅ……ほんとの本当に、ワタクシをゴミのように思ってなどおりませんのですね?」


「友達をゴミ扱いする訳ないって言ってますよね!」


「ワタクシが、友達っ! 男性の、お友達! ふふっ、うふふふふふふ!」


 何とか、必死になって言い募っている内に、いつの間にか俺たちは友達という間柄になっていた。


 そうでも言わないと、クローデットさんは、白目を剥いたまま帰ってこなさそうだったから。


 ……この人、見た目に反して面白キャラだったんだ。


「そういう訳で、納得してくれましたか?」


「バチバチに納得致しましたわ!」


 けど、その言動の愉快さが、騒ついていた心を慰めてくれた。

 面白い人って、こんなに素敵なんだとも思った。


 多分、その気になれば友達100人作れるタイプだろう。

 だから、ここでリーダーに推挙されたのかもしれない。


 色々、納得があるひと時だ。

 クローデットさんに構ってる内に、俺も心が軽くなってきたから。


「あっ、いつの間にかヤギミルクが届いておりますわね?」


「クローデットさんが取り乱してる時に、厨房から届きましたよ」


「……その、使用人は何か言っておられましたか?」


「楽しそうですね、クローデット様、と」


「ふざけ倒しておられますの!?」


 あと、さっきまではネコを被っていたらしい。

 喋る度におもしろお嬢様の方が、どうやら素だったみたいだ。


 第一印象で感じた、悲しげな令嬢のイメージが、綺麗にどこかへ吹き飛んで行った。


 けど、こっちの方がとっつきやすい。

 見てるだけで、元気を貰える。


 この村に感じていた余所余所しさが、今のクローデットさんを見ていると、綺麗に無くなっていくのを感じる。


 ……俺は相変わらず役立たずのままだけど、今日は相談に来て良かった。


 少なくとも、落ち込んだままだった気持ちを、前向きにさせてもらえた。

 それって、結構重要なことだろうから。


「……クローデットさん、今日は本当にありがとうございました」


「ですわ?」


「あなたのお陰で、心が軽くなりました」


「もう、お帰りになるということですの?」


「ミルク、飲みきっちゃいましたから」


 どうやら、この会話は俺が一方的に楽しんでいたという訳では無いらしい。

 クローデットさんも、相応に惜しんでくれている。


 それが……友達って感じで、こそばゆくて。


「また、話をしに来てもいいですか?」


「是非にお願い致しますわ!!」


 すごく元気な返事に、笑みが溢れるのを自覚する。

 少なくとも、クローデットさんは俺を必要としてくれているのだと思えたから。


「では、また──」


「あっ、お待ちになって!」


 満足して、席を立とうとしたところで、クローデットさんに呼び止められた。


 俺が動きを止めると、クローデットさんは最後に一つだけ、と笑みを浮かべて。



「──するべき事柄が無い時は、したいことを。それも無い時は、してあげたいことを探すのが良いと思いますの」



 有耶無耶になったと思っていた俺の悩み、その解法を伝えてくれたのだった。


 したいこと、若しくはしてあげたいこと。

 その言葉が耳に残る。


 なるほど、と思った。

 納得が心に去来した。


「クローデットさん、ありがとうございます!」


 深々と、俺はクローデットさんに頭を下げた。


 この人が村のリーダーをしているのは、人格だけでなく細かなところまで見えているからなのだと、深く納得した故に。




「……あれ、今のワタクシ、もしかしてすごく格好良かったのではなくって?」


「はい、一から十まで格好良かったです」


「き、聞かれていたのですわーーーっ!!!」


 クローデットさんの絶叫を背に、頭を上げて退室する。


 教えてもらった、自分のしたいことや誰かにしてあげたいこと。

 それについて、早速探したくて。


 きっと、今なら何か、見つかる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。