山の王様あらわる。私の即興・初夏の三部作
もうすぐ、あの騒がしくも愛おしい季節がやってくる。
6月も半ばを過ぎると、そわそわし出すのは僕だけではないはずだ。
そう、カブトムシやクワガタたちが、長い眠りから覚めて動き出す、あの熱い夏の始まりである。
最近の僕は、胸に浮かんだ初夏の景色を、そのまま五・七・五の形に載せて紡ぐのが密かな楽しみになっている。
気づけば今日も、あっという間に三つの句が生まれていた。
最初の一句は、少し知的な言葉遊びから始まった。
学校の先生を前にして、ふと自分のこだわりや個性を、あのクワガタの「型」に例えて名乗ってみた、そんなユーモラスな一幕である。
先生に
ミヤマクワ型
名乗りけり
ミヤマクワガタのオスには、大アゴの形によって「エゾ型」「ヤマ型」「フジ型」の3つのタイプがある。
昆虫好きにしか伝わらない、けれど伝わった瞬間にニヤリとしてしまうような、先生と僕だけの秘密の通信。
そんなお茶目な空気感を込めてみた。
そして、季節は一気に里山の深緑へと突き進む。
クヌギやコナラの混じる雑木林。甘い樹液の匂いをたどった先、特等席にどっしりと構えているのは、やはり彼しかいない。
楢の木に
とまる姿は
山の王
ゴツゴツとした楢の樹皮にしがみつき、誇らしげに黒光りする鎧をまとう姿。
それはまさに、夏の森の絶対王者。
見上げるこちらの背筋が伸びるような、そんな威風堂々とした風格をそのまま言葉に切り取った。
王者がいれば、もちろんその山を裏から支配する「主」もいる。
最後の一句は、その大アゴの形から実在するあの山へとイメージを飛ばした、お気に入りの言葉遊びだ。
クワガタや
のこぎり山の
主かな
大きく湾曲した大アゴを持つ、ノコギリクワガタの大型個体――通称「水牛」。
彼らが鋭いハサミを振り上げて威嚇する姿は、まるで険しい「鋸山」そのものを背負って立つ主のようだ。
こうして3つの句を並べてみると、僕の頭の中はもう、夏のクヌギ林の匂いでいっぱいになってしまう。
今夜あたり、ちょっと様子を見に近くの街灯でも覗きに行ってみようか。
僕たちの夏は、もうすぐそこまで来ている。
------------------------------
いつも応援ありがとうございます。
本日は、本作をリアルタイムで追いかけてくださっている皆様へ、すでに【完結済】となっている、私のもう一つの歴史小説をご案内させてください。
屋島の海に舞った紅の扇を射落としたことであまりに有名な英雄・那須与一。
もしも彼が「英雄になりたくなかった、一人のストイックな職人」として、ただただ一族の泥臭い生存を追い求めていたとしたら――。
■ 完結済『風を読む ―那須与宗隆 手塩の弓』
大冷山から吹き下ろす「那須おろし」は、飢えた者の肌を容赦なく削る。
後世、人々は彼を英雄と呼ぶでしょう。だが、彼が真に射抜こうとしたものは、名誉でも英雄の座でもありませんでした。それは明日の飯であり、引き裂かれた血族の再会であり、「那須の人間は、しぶてぇんだっぺ」と笑い飛ばす、終わりのない一族の生存そのものでした。
華やかな源平合戦の影で、弓という「道具」一つを武器に、時代の嵐を読み解き、八百年の未来を射抜こうとした一人の職人の物語です。
すでに最後まで一気読みしていただける状態になっております。「那須一族のしぶとさに勇気をもらった」と感じていただけましたら幸いです。ぜひこちらのURLから、那須の荒野の風を感じてみてください!
https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/3149789/




