一瞬のきらめきを、十七音にすくい上げて
日々の散歩道を歩いていると、ふと足が止まる瞬間がある。
あるいは、テレビの画面越しに、胸がぎゅっと熱くなる一瞬がある。
小説という長い物語を紡ぐのも私の生業だが、時に、世界が一瞬だけ見せる「最高の表情」を、ぎゅっと凝縮して残したくなる。それが私にとっての俳句だ。
先日も、近所に咲く花菖蒲を見つめていた。
すっと立った大ぶりの花びらは、まるで特等席のよう。そこに、小さな先客が訪れた。
蜂や蝶 座りがよいぞ 花菖蒲
景色がぴたっと決まったその瞬間、自然の調和に思わず笑みがこぼれる。
けれど、世の中の「一瞬」は、のどかなものばかりではない。
白球を追う若者たちの姿を見ていたとき、胸の奥が熱くなった。ほんの一瞬の球の動き、ほんの一瞬の判断で、それまで流したすべての汗の行く末が決まってしまう。その残酷なまでの勝負の世界。
一瞬の 汗の雫に 涙飲む
飛び散る汗と、堪えた涙。あの熱量と悔しさは、きっと彼らのこれからの人生の糧になるのだろうと、祈るような気持ちで胸に刻んだ。
そんな熱狂から離れ、今度は遠い島に思いを馳せてみる。
青い海、吹き抜ける潮風。その中を、あの美しい鳥たちがのびのびと舞っている。
潮風や 笑顔で飛びかう 朱鷺の島
そこにはきっと、鳥たちを優しい目で見つめる人々の笑顔もある。島全体が温かい光に包まれているような、そんな大らかな情景が浮かんでくる。
花菖蒲の静寂、勝負の激情、そして島の祝福。
一見、何の脈絡もない三つの景色。
けれど、どれもが私の心が震えた「一瞬のきらめき」だ。
長い物語の合間に、こうして世界の美しさを十七音ですくい上げる。
そんな贅沢な寄り道が、私の物語にまた、新しい風を吹き込んでくれるような気がしている。




