第2話:腹つかえ、慌てて向かう青葉の道
第2話 どんなに風流を気取って歩いていても、現実は容赦なく押し寄せてくる。
特に、初夏の薄着の季節は鬼門だ。
鏡の前でふと自分の姿を見た瞬間、あるいはズボンのベルトに手をかけた瞬間、言葉にできない「違和感」を覚えることがある。
「腹つかえ 慌てて向う 遊歩道」
……いけない。非常に、よろしくない。
自慢ではないが、最近の私は少々、美食が過ぎたようだ。お腹まわりが物理的に「つっかえる」ような感覚に襲われ、私はにわかに危機感を募らせた。
こうしちゃいられないと、慌ててウォーキング用のウェアに袖を通し、玄関を飛び出していつもの遊歩道へと向かう。
心なしか、いつもより足早に歩みを進める。
交差点に差し掛かると、路面にはお馴染みの「止まれ」の標識。
「止まれには 二度止まる所作 初夏の道」
焦って歩いてはいるものの、そこは大人の男だ。一時停止線できちんとピタッと足を止める。
しかし、そこからでは左右の見通しが悪い。ジリジリと数歩前に出て、安全を確認するためにもう一度、しっかりと足を止める。
この「二度止まる」という丁寧な所作こそが、心にゆとりを生むのだ。車を運転するときも、歩くときも、この律儀なリズムが初夏の爽やかな風に実によく馴染む。
よし、安全確認も万全。再びお腹をへこませるべく、ぐんぐんと歩き出した、その時だった。
頭上の木々から、実によく通る声が響き渡った。
「カァーーー、カァーーー」
「ダイエット それゃ無理だろよ 烏鳴く」
……なんだね、君は。
まるで私の心の焦りや、これまでの不摂生を見透かしたかのような、絶妙なタイミングでの野次である。カラスの旦那にしてみれば、「おいおい、そんなに慌てて歩いたって、どうせ三日坊主だろ?」と笑っているのかもしれない。
「うるさいやい、今度こそ本気だ!」
心の中でカラスに言い返しつつ、少し苦笑いしながら、私は再び遊歩道の青葉の中へと足を速めるのだった。




