第1話:あっちゅ寝太郎の、初夏(はつなつ)の風を追いかけて
第1話:野の小径で見つけた、名もなき忘れ物
季節が春から初夏へと、衣を替えるように移り変わるこの時期。
私はお気に入りの散歩道を、いつもより少しだけ速度を落として歩くのが好きだ。
ふと足元に目を落とすと、数日前まで黄色い大輪を誇らしげに咲かせていたタンポポが、いつの間にか真っ白な綿毛に姿を変えている。
「たんぽぽの 次の願いを 風運ぶ」
風がそよぐたび、小さな綿毛がひとつ、またひとつと空へ舞い上がっていく。
あれはただ飛ばされているのではない。
まだ見ぬ異郷の地で、再び美しい花を咲かせようという、健気な「次の願い」を胸に秘めて旅立っているのだ。そう思うと、見慣れた景色が急にドラマチックに輝き始める。
そんなタンポポの旅路を見送った先には、背の低い野草たちが青々と茂っていた。
「野の草に 花一輪の 佇まい」
華やかな都会の花屋には並ばないような、名もなき草の中に、ぽつんと一輪だけ小さな花が咲いている。
誰に褒められるためでもなく、ただそこにスッと背筋を伸ばして立っている姿には、言葉にできない凛とした強さと、孤独な美しさが宿っている。
ふと見上げれば、頭上の桜の木が、今度は青い葉を茂らせて涼しげな木陰を作ってくれていた。
その根元、舗装された道の上に、小さくて黒い実がいくつか転がっている。
「桜の実 鳩や烏の 忘れ物」
初夏の桜の実は、鳥たちにとっては格好のごちそうだ。
きっと、鳩やカラスの旦那たちが「どれ、ひとつ突っついてやろう」と集まり、お喋りに夢中になるあまり、ポロッと地面に落としてしまったのだろう。
おてんばな鳥たちの慌てた顔を想像すると、道端の落とし物さえ愛おしく思えてくる。
木陰を抜けると、今度は目の前に鮮やかな緑の芝生が広がった。
光を浴びて青々と輝くその絨毯の上を、一匹の白い影が横切っていく。
「芝青く 紋白蝶が 傾く舞」
初夏の強い日差しに映える、芝生の「青」と、モンシロチョウの「白」。
蝶はまっすぐ飛ぶわけではない。風に煽られたのか、それとも蜜の香りに誘われたのか、ひらひらと、どこか危なっかしく斜めに「傾き」ながら舞っている。
その不規則な軌道こそが、初夏の躍動そのもののように思えた。
小さな命たちの営みに耳を澄ませながら歩く散歩道。
初夏の風は、今日もたくさんの物語を私の元へ運んでくれる。




