空と風のゆくえ、星の微笑む場所まで
ふと見上げた空の機嫌に、私たちはどれほど心を動かされているのだろう。
ある晴れた春の昼下がり、歩き出しの空はどこまでも穏やかだった。
「雲薄く 春に広がる 陽のあかり」
柔らかな光が満ちる中を歩いていると、やがて陽気に誘われるようにして、ちいさな雲たちが集まってくる。
「おひさまに 雲集いしや 青い空」
賑やかさを増していく青空を見上げながら、心地よい歩みを止めることはない。けれど、自然の移ろいは思いのほか早いものだ。夕刻が近づくにつれ、集まった雲は厚みを帯び、温かかった空気の中に冷ややかな風が混じり始める。
「雲集い 東風に吹かれて 冷ます宵」
すっかり日が落ちて、夜の帳が下りる頃。ふと見上げれば、雲の切れ間に鋭くも美しい三日月が姿を現していた。その凛とした光に、なぜだか遠くにいる大切なあの人のまっすぐな瞳が重なる。
「三日月に あのこの瞳 浮かびけり」
どこか切ない心地に浸っていると、ぽつり、と夜の闇から冷たい雫が落ちてきた。
お酒の酔いなど、その一瞬の冷たさであっけなく冷めてしまう。頬を伝うそれが、空からの雨なのか、それとも胸の奥から溢れたものなのか、境目は曖昧なままだ。
「酔いも冷め 一粒の雨が 頬つたう」
だが、雨は長くは続かなかった。通り雨が夜空をきれいに洗い流したのだろう。
辿り着いた柏崎の海。目の前には、どっしりとした米山のシルエットが浮かび、足元には鯨波の優しい波音が響いている。見上げれば、そこには満天の星。まるでこれまでの旅路を労ってくれているかのように、星々が優しく瞬いていた。
「米山や 星が微笑む 鯨波」
光から始まり、風に吹かれ、雨に濡れて、最後にこの壮大な星空へと辿り着く。
空のゆくえを追いかけた私の小さな旅は、いま、波の音と満天の星に包まれながら、静かに美しく満たされている。




