山菜採りと 我が家の熊よけ
【エッセイ】山菜採りと、我が家の「熊よけ」
暖かな光に誘われて、今年も山あいの峠道へと足を運ぶ。
お目当ては、春の恵みである山菜だ。
緑の匂いを含んだ薫風に吹かれながら歩を進めていると、時に自然は、予想もしない驚きを仕掛けてくる。見上げるようなタラの芽の大木に出くわして思わず腰を抜かしそうになったり、極上のコシアブラかと思えばトゲだらけの漆の木に騙されそうになったり。ふと見れば、山の主である鹿までもが、同じように騙されたのか、ぷいと横を向いているから可笑しい。
一汗かいたところで、冷たい湧き水を見つけた。
喉を潤し、ふぅと腰を下ろすと、すぐ傍らには先客の蛙がちょこんと座っている。言葉は交わさずとも、「いい水だな」「そうだね」と、互いに一息ついているような、妙にのどかな時間が流れる。
そんな私の山歩きには、なくてはならない最高の相棒がついてきている。
夕暮れ時、遠くの街からゴーンと帰宅を促す鐘の音が響き渡る。
私は、足元にいる頼もしい背中に声をかける。
「そろそろ帰ろ」
そう、彼こそが我が家の「熊よけ」——でかいポチである。
ポチのどっしりとした存在感に守られながら、今日も無事に山の恵みを分けてもらった。ひびの安寧と、小さな冒険を噛み締めながら、私たちは夕焼け空の下を家路へとつくのだ。
【山歩き、五つの調べ】
「清水いで 花かげろうや 緑もゆ」
「峠道 薫風そよぎ 涼を呼ぶ」
「山あいの タラの芽の木に 腰抜かし」
「コシアブラ 鹿も横向く 漆の木」
「湧き水に 蛙とともに ひと休み」
「でかいポチ そろそろ帰ろ 鈴が鳴る」
山菜採りはくれぐれもご用心。知らぬ山には近づかず。ですかな。




