良寛の静寂と佐渡の躍動――三句に込めたる執筆の風
近況ノート:三つの調べ、夏の兆し
執筆の合間、心に浮かぶ景色を五・七・五に託しておりやす。
物語を編む手も、時にはこうして季節の風に遊ばせねば、乾いてしまうものでげす。
まずは、越後の先師に思いを馳せて。
むらさき野 大愚ひとえに 潮あらし
高貴な紫野の空気が、自らを「大愚」と称した良寛さんの清廉な生き様と重なりやす。吹き抜ける潮あらしは、すべてを洗い流す清々しさでげす。
降り続く雨に、ふと筆を止めた日もございやした。
五月雨や 愚僧ひとえの 児の涙
しとしとと降る雨音は、どこか幼子の泣き声に似て。そんな繊細な心の揺れも、物語を紡ぐ大事な欠片となっていくようでげす。
そして今、風は一気に夏を連れてまいりやした。
夏きたり 雄たるマグロ 佐渡島
佐渡の海を跳ねる、黒きダイヤのごとき生命力。
静かな思索も良いものですが、このマグロのような力強さをもって、物語をさらなる高みへと進めていきたいと思う今日この頃でげす。
季節の変わり目、皆さまもお体にお気をつけて。
また本編でお会いいたしましょう。
【あとがきの一筆】
これまで三十日間にわたり、毎日お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
作中にちりばめました数々の句は、俳句のガチガチの決まり事(季語や五七五の定型など)にこだわらず、その時々の旅情や歴史のロマンをそのまま形にした、いわば「無知の句」「自由律のうた」でございます。
専門の先生方がご覧になれば「おや?」と首を傾げるような字余りや無季の拙い部分も多々ございますが、旅の情景を写す一つの表現として、どうか大目に見てご容赦いただけますと幸いです。
まずは無事に三十話を書き終えられましたこと、読者の皆様に心より感謝申し上げます。




