:物書きの目、季節の悪戯(いたずら) 〜五つの調べ〜
タイトル:物書きの目、季節の悪戯 〜五つの調べ〜
はじめに
机の前に座り、言葉を紡ぐ。それは時に、果てのない砂漠を歩くような孤独な作業です。しかし、ふと窓の外へ、あるいはいつもの散歩道へ目を向ければ、世界はこんなにもお喋りで、ドラマに満ちあふれていることに気づかされます。
今回は、日々の営みのなかで私の心が捉えた、五つの景色をお届けします。
一、 水鳥のゆくえ
【 水鳥や 何を想いて 渡る橋 】
川面を静かに進む水鳥たちが、橋の下をくぐり抜けていきます。あるいは大空に架かる見えない橋を渡っていく。彼らは一体、何を想い、どこを目指しているのでしょうか。自然の営みのなかに、ふと人間以上の深い「情」を感じる瞬間があります。
二、 物書きの覚悟
【 物書きが ハマヒルガオと 同盟す 】
砂浜という厳しい環境のなか、潮風に耐えて凛と咲くハマヒルガオ。その花言葉には「絆」や「交誼(親しい付き合い)」という意味があるそうです。孤独に言葉を紡ぐ物書きと、砂に根を張る一輪の花。互いの生き方に敬意を払い、目に見えない固い約束を交わしたような、静かな覚悟の句です。
三、 自然の大舞台
【 春の土手 レンゲの花に 早変わり 】
昨日までは冬の名残の枯れ色だった土手が、春の訪れとともに一転、鮮やかなピンク色に染まる。まるで歌舞伎の舞台裏で黒衣が糸を引いた瞬間に、一瞬で衣装が変わる「ぶっ返り」のようです。お天道様という名の大座長が仕掛けた、実に見事な早変わりでございます。
四、 青葉の陰の悪戯っ子
【 梅の実が こそりとこちら 覗き見る 】
五月、みずみずしい青葉のなかに、丸くて小さな梅の実がつき始める季節です。こちらが「見つける」よりも先に、向こうが葉っぱの隙間から「だるまさんがころんだ」でもするみたいに、じっとこちらを窺っている。そんな愛らしい気配を感じて、思わず笑みがこぼれました。
五、 旅人の恋
【 蜂飼いが 恋慕の香り アカシヤに 】
花を追いかけて旅をする養蜂家――蜂飼い。彼らが巡り合うアカシヤの真っ白な花からは、甘く濃厚な香りが漂います。蜂たちが夢中になるその香りは、旅を続ける彼らにとって、恋焦がれた人の面影のようでもあり、どこか切ない情を抱かせます。
結びに
ただ通り過ぎてしまうような景色でも、五・七・五というフィルターを通すと、万物が急に生き生きと語りかけてくるから不思議なものです。
皆さんの周りにも、いま、手品のような「早変わり」や、恥ずかしそうな「覗き見」が隠れているかもしれません。たまには息を抜いて、周りを見渡してみてはいかがでしょうか。




