聖女が給仕!
魔王様視点です。
ツライ・・・
果てしなくツライ・・・
と言うのも、今までやってた仕事の倍以上の仕事が俺の所に回って来ているからだ。今まで仕事をまともにやってなかったから、一つの案件でも過去の事案を調べたりしていたら時間がかかってしまう。
出来るだけ仕事をサボる事ばかり考えて生きてきた身としては、ツライ事この上ない。
なぜこんなにも俺の所に仕事が回ってきたかと言うと、色ボケ宰相殿がメイドとして入った聖女の尻ばかり追いかけているからだ。
そこに恋愛的感情は全くなくても、しつこくねちっこく嫌味ったらしく追いかけ回していれば、もう色ボケで十分だと思う。
この魔王城の頭脳とまで言われた宰相だが、聖女を辞めさせる為にやってるのは実に幼稚な嫌がらせだった。
まあ、積もり積もれば嫌になって辞めていきそうではあるが、やられている相手はあの聖女だ。いつも無表情でサラリとかわしている。効いているとは思えない。
その上、聖女を辞めさせたいと思っているのは宰相くらいで、聖女と戦った兵士ですらこの城で働くことに依存はないようだった。
因みに、軍隊の並み居る兵士達もへこたれるシゴキを平然とこなす様を見るうちに大将軍も聖女排除派から容認派へ転向したのはわりとすぐだった気がする。さすが脳筋将軍だ。
ホント、宰相殿もさっさと諦めてくれね~かな~。
執務机に足を乗っけて、椅子の後ろ脚2本でバランスをとって遊ぶ。
まだ処理しなければならない書類が山積みになっているのを見るとため息しか出てこない。
俺の書類処理能力が低いのか、書類自体が多すぎるのか。
・・・書類が多すぎるせいだと思いたい。
「魔王様、本日のお茶はレモンティーとミルクティーのどちらになさいますか」
ビクゥッ!!
急にした人の気配と声に驚いてバランスを崩して椅子ごと倒れてしまった。びっくりしすぎて痛みも忘れる。
いつの間にいたんだ・・・
見ると聖女がお茶の用意をしている所だった。
俺が倒れてもスルーして準備を進める所とかさすがだ。
「どちらになさいますか」
非常に圧力を感じる催促に、おずおずととりあえずミルクティーを頼む。
聖女は茶葉を入れたティーポットに勢いよく湯を注いでいる。
「えーっと?いつものメイドのシエルは?」
「・・・とりあえず、生きてはいます」
手を止めずに言う聖女にビビった。
え?聖女がメイドを暗殺でもしようとした訳?!
この城には聖女含めて3人しかメイドいないからか、仲良くやってるように見えたんだけど。
まあ、そこは女子だし?色ボケ宰相なんか目じゃないくらい陰湿なイジメとかがあったのかもしれない。
そんで同僚メイドを・・・
詳しくは聞けてないけど、組織とか刺客とか言ってたもんな。腹いせに殺害目論んでも不思議じゃない気がしなくもない。
「誤解がないよう付け加えると、シエルさんは食当たりで倒れて、ビアンキさんは付き添いをなさってます」
「え、それって他のヤツは無事だったのか?食当たりなら食堂が原因か・・・」
魔王城の厨房は一カ所だけだが、この城に勤める者は殆どがそこを利用している。安くて多くて美味ければ、利用しない手はない。下っ端兵士から魔王の俺もそこにお世話になっているのだ。
まあ、最近は忙しくて食堂からここまでお昼を持って来てもらってるけど。
んで、そこが原因の食中毒となると、大掛かりな検査が必要だろう。何日かは食堂の利用停止もしなきゃならないし、原因によってはもっとかかるかもしれない。
昼食難民が出るかもしれないな。俺も明日からの食事はどうしよう。
実に頭の痛くなる話しだ。
「同じものを食べたのは私だけですから、他の方に被害はありません。食堂の検査も必要ないかと思います。そもそも宰相様が原因ですので」
俺の頭の中を覗いたかのようにスラスラと憂慮していた点に答えていく聖女。
そうか、他に被害がなくて食堂が原因でもなかったなら、良かった良かっ・・・
「・・・宰相が原因??」
訳がわからなすぎて頭がコテンと傾く。
「どうやら私への嫌がらせの一環として食当たりを起こすお菓子を私宛に寄越したんですが、気付かずに同僚と食べてしまって・・・それでこんな事態に」
言いながら紅茶を机に音もなく置く聖女。
ソーサーとカップがカチリとも音がしないのはメイドスキルが高いのか、それとも隠密スキルが高いのか・・・そんなどうでもいい事を考えたくなる案件が出て来たーーー!!
え!宰相が聖女に毒を盛ったの?しかも城勤めの他のメイドを巻き込んで??
コレ、即刻解雇案件じゃね?ただでさえ自分の仕事でいっぱいいっぱいなのに、クビになった宰相の仕事までするとか無理無理無理無理!!!
自分でもわかるほど、血の気が引いていく。
「なんか、ゴメン。俺、本人じゃないし君も被害にあった娘じゃないけど・・・なんかホント、ゴメン」
これで許される訳がないと思っているけど、この城のトップとして本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ホント、何しでかしてくれてんだよぉ~~~!!!
それでも本当に宰相かよぉ!!
「魔王様のせいではありませんし、気にする必要はございません。ですが、どうしても責任を感じられるようでしたら、こちらにサインをお願い致します。仕置きは容態が元に戻ったら、自分達で仕置きするつもりなので」
聖女はスッと懐から書面を一枚取り出した。
渡された紙に目を通すと───うん、お仕置きに必要な許可なんだろうね。特にこちらに被害が出そうもないので、サインしといた。
スマン。宰相殿、売ったわ。
食べ物の恨みと女の恨みは恐いんで、覚悟しといた方がいい。
聖女はお礼を言うと、再び懐に書面をしまった。
とりあえず出された紅茶を飲む。少し混乱していた頭が幾分か落ち着いた気がする。
忘れよう。
この件はしばらく忘れよう。
「そういえばさ、名前は何て言うの?聖女って呼ぶのも、メイドって呼ぶのもなんかね」
「・・・・・」
茶菓子の準備する手を止めてこちらを凝視している。
いや、凝視って珍しいな。
いつもは無表情でじっと見つめるくらいなのに、今回はちょっと驚いているのがわかる。
「・・・リオナです」
「リオナ、か・・・なんか可愛いな」
もっと聖女っぽいジャンヌダルクとかマリーアントワネットとか、そんな感じかと思ったら、意外に庶民的なネーミングでほっこりする。
規格外の戦闘系聖女だし、もっと親しみのある方がいいと思う。魔王が聖女に親しむってどうよとも思うけど。
聖女改めリオナはますます驚いた表情になったが、すぐに気を取り直して茶菓子の準備をしながら言った。
「いえ、そんな事はないかと・・・組織から与えられた名前ですし、人間の中では一般的な部類に入るものですので」
「その、さ・・・ちょいちょい出てくる組織ってなんなの?刺客とか放って来るんでしょ?ちょっとヤバイにおいがプンプンするんだけど」
今まではスルーしてきたけど、リオナがメイドとして働きはじめてここにも馴染んで来てるようだし、こうして話す機会も滅多にないし、色々突っ込んで聞いておいた方がいいだろう。
「簡単に言えば悪の組織です。殺人、売春、窃盗、密偵など様々な裏の職種の人間を育成しています。その全容は私もよくわかりませんが、長いこと続いている組織ですので、国の中枢部にも入り込んでいるかもしれません。さすがに魔王城まで密偵や刺客を放ったら人間でしょうからすぐにわかるかと思いますが、もし見付けたらご迷惑をおかけする前に私が始末しますので、ご安心を」
サーッと一気に言われた言葉が脳内で理解出来るまで少し時間がかかった。
「あ、えーっと・・・その刺客とか密偵って、そんなに強いの?リオナくらい??」
「密偵のスキルについては具体例があげれませんが、単体で言えば密偵も刺客も私より格下です」
「団体で来る可能性もあるって事か」
「はい。そうなった場合、少し手こずるかもしれません」
申し訳ございませんと続けるリオナに、俺は笑いながら言った。
「リオナはもう魔王の庇護下にいるんだから、俺も他の兵士達も頼っていいんだよ」
そう言うと、リオナは俯いて耳を真っ赤にしていた。
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更新は明後日以降を予定いたしております。
楽しみにされている方がいらっしゃったら、申し訳ございません。
しばらくお待ちくださいませ。
今回は宰相様の株が大暴落して、魔王様の株が少し上がる話しでした。
次回は宰相の株を少し上げたいなと思います。
そして魔王様達よりメイドさんの名前が先に出ましたので。
食当たりメイド→シエル
付き添いメイド→ビアンキ
主人公(聖女メイド)→リオナ




