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聖女がメイド!  作者: 紅玉ツバキ
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聖女がメイド!


今、俺は窮地に立たされている。


嫌な汗が足垂れ流れているが、その汗を拭くことすらままならない。

仮にも俺はこの城の主で、魔族の長的なポジションで、目の前の二人の上司の筈だが・・・

どうやらそれは幻影に過ぎないらしい。


いや、わかっていた。

俺の魔王たる権力も威厳もこの二人の前では風の前の塵に同じだ。


今現在どんな状況かというと、魔王城の宰相殿と大将軍殿に叱られている。

玉座のある広間に正座させられて。



「ハァー、本当に困りましたね」



さっきから同じ台詞しか聞いていない。

流し目がよく似合う色男の宰相だが、今は厭味ったらしい姑にしか見えない。窓の桟をツツツゥーッと指で撫で、フッと吹き飛ばして「埃で窒息させるつもりですか」とか言いそうだ。



「ホントにな」



これもさっきから同じだった。

こっちは顔面凶器の大将軍の台詞。ただでさえ凶悪な顔を更に歪めている。

これに殺気が乗れば、ションベン漏らすのは必須だろう。


ほぼ実権を握っているとも言えるこの二人が何をご立腹なのかというと、カチコミにやって来た・・・もとい、就職しにやって来た聖女をメイドとして雇う事になった件だろう。


だって、あの時はそう言う他なかった。

聖女の顔を思い出してすーんと気持ちが更に落ち込んだ。


俺が魔王と言う立場である以上、威厳の問題でそう簡単に魔王の決定事項を覆せないらしい。

お色気宰相の言葉を借りるなら、通常であれば、俺がアフォな発言をする前に諌めるのがこの二人の役目だという。


いやいやいや。威厳も何も、あんたら俺を魔王として敬ってないじゃん?とは言えないので、せりあがってくる吐き気と共に不満は飲み込む。



「そっ、そんなに気に入らないなら、いびって辞めさせればいいじゃないか」



自主的に辞めるなら問題無いだろうが。

と言えば、二人もさもありなんと言う顔をして納得したようだ。


宰相は得意分野なのでクツクツと楽しそうに笑い、大将軍は深く考え込んでいた。


二人はきっと聖女に対する嫌がらせを考えはじめたようだが、さてどうだろう。

果たしてあの聖女が嫌がらせ程度で辞めていくだろうか?


刺客とか組織とかおおよそ聖女には似つかわしくない単語ばかりが飛び出す。

多分、聖女じゃなくて年頃の娘さんから出てくる単語でもないだろう。


つまりこの聖女、普通じゃない。

聖女としてではなく、人として。











********











魔王城で目論見通りメイドとして働く事になって数日。

ようやく一日の流れが定まってきた所だ。



親切心なのか護衛も兼任させたかったかは不明だが、有り難い事に始業の前後で軍の訓練に混ぜてもらえる事となった。

大将軍様直々に誘ってくださり、訓練も直接指導してくださる。


これは本当に有り難かった。

と言うのも、魔王城にいるとはいえ、組織から放たれる刺客がいつやってくるともわからない。他国に逃げるよりは確率的に低いだろうが、安心しきってしまうのもどうだろう。


緩みきった所をバッサリ、とか嫌だ。


そんな訳で大将軍様にお礼を言ったら、何故か苦い顔をされた。

解せぬ。



メイド業務が始まれば、広大な城内の掃除から始める。これは姑的な宰相から言い付けられた仕事だ。

魔王城の掃除を一人で終わらせなければならないとか嫌がらせでしかない。


私を辞めさせたいのだろうなと言うのはヒシヒシと伝わるので、言い付けられた職務は全うし、敵意はのらりくらりとかわす事にしている。


一々売られた喧嘩を買っていたら疲れるだけだ。

それだけ頻繁に宰相は厭味と嫌がらせにやって来た。宰相職は暇なんだろうか?


モップを持ってゴシゴシ、雑巾片手にゴシゴシ。


余りに広いので割と適当にやっているが、これがなかなかどうして、聖女の浄化能力のおかげか適当にやってもかなり綺麗になる。

聖女で良かったと思う瞬間だ。



「おやおや、そんな適当な拭き方で綺麗になるんですか?」



厭味ったらしい言い方で、登場したのは魔王城の麗しき宰相だった。流麗な仕種で、窓を拭く私の隣に並び立つ。拭き残しや拭き筋が残っていないかジッと見つめている。


が、それも私の聖女スキルの前では無意味な行為。そもそも毎日掃除しているんだから、そんな汚れている訳がない。

ピカピカになった窓を見てあげつらう事が出来ないのがわかったのか、不自然にならない程度に部屋を見回している。多分、他に指摘する所が無いか探しているようだ。


暇を持て余した姑かよ。

とは言えないので、宰相を無視して掃除を続ける。


机の上を触ったり、本棚の本を抜いてチェックしている。

顔も髪も綺麗で、頭の巻き角があっても、人間の世界でもモテるだろうな~と思う。まあ、この性格がなければ、の話だが。


結局、どこも及第点に及ばない点が見付からなかったらしい。

最終的に舌打ちをして、部屋を出て行った。



それから手を変え品を変え宰相がやって来て、バケツの水をひっくり返して仕事を増やしてみたり、ニコニコと素敵だとか可愛らしいとか口説きにかかって邪魔をしたり。

もういっそ私の事が好きなんじゃないかと思うくらいつっかかってくる。が、どれもうまく行かず、最後には地団駄を踏んで去っていくので違うのだろう。


毎日こうやって悉く惨敗していくんだから、もう諦めればいい。

と言うか、自分の仕事しろよ。



少し遅めの昼食を摂るため食堂に行くと、必ず宰相がついて来る。そして注文の品を私の前で食べはじめる。

もちろん意地悪な宰相が楽しくランチをする為にここにいる訳ではない事は明白だった。


食事をする前に、苦味のある野菜やら臭みが独特のハーブを自分の皿から私の皿へと移すのを忘れない。


嫌いな食材なのか、クセのある食材だからなのかは知らないが、彼はそういった食材が入っているものを注文しているようだ。

二日前には殆どが苦味食材であるものを注文し、私の皿に移すものだから、メインメニューが半分以下になっていた。


ねえ、もう宰相とか向いていないんじゃない?大丈夫?と思う。


頭脳がちょっと可哀相な宰相の事をぼんやり心配していると、何を勘違いしたかニヤニヤしながら宰相が話しかけてきた。



「おや?食べないんですか?」



いえいえ、いただきますよ。

どうしても無理と言う訳でもないので、増えたご飯は有り難く食べる事にしている。


孤児院にいた時に比べればずっといい。カビたパンでもなければ、薄く味の付いたスープだけではないのだから。


そんな事情を知らない宰相は私が平然と食べはじめたのを見て、今日もまた綺麗な顔を悔しそうに歪めていた。


魔王城でメイドするようになってからよく思う事がある。



ホント、平和だな~。









********



明日も同じ時間帯に更新です。


宰相様がやたら絡んできますが、ラブではありません。

圧倒的にラブが足りません。

次回はもう少しラブ要素を取り入れられたらな、と思います。

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