聖女が交渉!
魔王様視点です。
今日は本当についてない。
常々自分が幸運だと思っている訳ではないけど、今日は特別ついてなかった。
いや、本当は今日は途中までついていた。ラッキーだと思っていた。
見るだけで縮み上がってしまうような顔の、小言とお見合い話がうんざりする程多い大将軍は部下を引き連れて、ちょっとやそっとでは戻って来れない所へ訓練しに行ったし。
失敗していなくとも重箱の隅をつつくようお小言ばかりの、姑か!とツッコミたくなってしまう宰相は何かに理由をつけて人間の町に追いやる事が出来たからだ。
あれ?自分の周り、小言言う配下しかいなくない?と思わないでもないが。
それ故に今日は思いっきり羽根が伸ばせるぞー!と意気込んでいたのが悪かったのか。
この魔王城に聖女がやってきた。
その知らせを受けたのは自室のベッドの上で今日は何をしようかとダラダラしている時だった。
聖女と言えど人間だし、大将軍率いる軍隊は不在とはいえ近衛兵や常勤の一般兵がいるし大丈夫だろうと高をくくっていた。
早々に片が付くと思っていたが、その期待は報告をしに来た兵士によって否定された。
「え?来てるの?すぐそこまで??」
ウ・ソ・だ・ろ!
とりあえず兵士に時間を稼ぐように言って、慌ててクローゼットに向かった。
まだ寝間着だったのだ。
通常の半分以下の時間で着替えを済ませ、手櫛で髪を整えながら走る。
普段、廊下は走っちゃ行けませんとか言われてるけど、今はしょうがない。もう走るしかない。
まあ、そういう訳で玉座についたと思ったら、広間の扉が開かれた。
ギッリギリ!!
ギッリギリセーフッ!!
バクバク言う心臓をなだめつつ、聖女を見やる。
爆撃を受けたのだろう衣服はあちこち煤けているが、破けたりはしていない。質素で粗末なワンピースを着ている。
ついでに言うなら怪我をしている様子も戦闘で疲労している様子もない。そのうえ無表情でこちらを見つめているので、余計に心拍数が上がった。
怖い・・・!
聖女コエーよ!!
従軍していない魔人でも人間には負けないくらいの強さを持っている。魔法も武道も日頃から鍛えている魔人ばかりが魔王城には詰めているのだ。
こんな時に頼りになる大将軍も宰相もいないとは言え、無傷で疲れた様子もなく、無表情とか・・・
俺、魔王だけど今日で終わるかもしれないと思った。
そりゃ魔王だし魔力とか魔人の中でも桁違いに持ってるけど、聖女より魔王の俺の方が魔力があるようだけど・・・勝てる気がしないのは何故だろう。
いまだにドクドクいう心臓に、早く静まれー!と心の中で命令する。
このまま何も言わずに魔人でも必死の攻撃を仕掛けていいのだろうか?
それとも話し合いの場を設けるべきだろうか?
いっそのこと聖女にこの魔王の座を譲るって言うのはどうだろう?
自分の尻が落ち着かない。
魔王は世襲制だ。
俺も前魔王の父親が「いい加減、余生を楽しみたい!!」と無理矢理引退をしてしまった。父親がウンザリする魔王業をどうしてやる気に満ちあふれてやれるだろうか。
兄弟はいないし他に継ぐヤツがいないので仕方なく継いでいるだけで、やる気も何もない。父親が隠居しなければ、まだまだ何百年かはモラトリアムを楽しんでいたかった。
聖女がやりたいって言うならすぐさま魔王譲るって。
まあ、それは置いといて・・・そもそも聖女は何故ここにいるのだろうか?
魔獣については人間に被害が出ないようにしているし、魔人に関しても人間と関わるメリットが無いから関わらない筈だし・・・
まさか、個人的な恨みでも?!
「このお城の責任者の方ですか?」
「ええ、責任者と言うか何と言うか・・・」
むしろ魔王ですけど。これ、ハッキリ言った方がいいのか?
言わないでいた方が安全牌か?
嗚呼、でも玉座に座ってるしな。
わかっちゃうよな。
「・・・では、貴方は魔王様で?」
「ああ、うん・・・まあ、はい」
やっぱりわかっちゃうよな~。
ちょっとガッカリした気持ちになってしまう。
ガシガシと頭を掻きむしりたい衝動に駆られながらも、どうやって聖女にお帰り頂くか考えていた時だった。
「では、魔王様。私をここでメイドとして雇ってくださいませ」
んん?!
今、何と??
「出来れば住み込みで」
「・・・・・」
それは・・・うん?
つまりどういう事だろうか?
寝首をかきますよ、精々楽しませてくださいね、と言う事か?
「え?つまり・・・住み込みで魔王を暗殺するぞ~!的な?」
「いえ、純粋にメイドとして住み込みで働きたいだけです。家事能力は高めです。みっちり仕込まれていますので」
聖女が魔王城でメイド希望??
いや、俺は魔王だから人間の聖女っていうのがどんなもんかは詳しくは知らないけどさ、小説とか読む限り、聖女ってもっとこう・・・やる事無いんだろうか?
世界の浄化とか魔族討伐とか。
まあ、ここで魔族討伐とかされても困るけど。
「ちょっと確認なんですけど、貴女は聖女ですよね?」
「らしいですね」
「らしいって・・・」
聖女としての自覚がないんで、と聖女は素っ気なく言った。
え?じゃあ、神気を纏ったただの人?
あ、いや、ただの人が魔王城に殴り込みには来ないし、背後に魔人の屍(多分死んではいないけど)を作ったりはしないだろう。
俺は扉の向こうに見える死屍累々とした廊下の様子をチラリと見やった。
「じゃあ、また何でこんな魔王城でメイドを??」
「組織に命狙われてるんです。他国に逃げ込むよりここに逃げ込んだ方が人間の刺客とかすぐ発覚するだろうし、まさかここに居るとは思わないだろうし」
私にとってはいい事尽くしなんですよ、とやはり無表情で言う聖女。
どうやら彼女にとっては無表情が基本装備らしい。
と言うか組織ってなに?
命狙われるより魔王城の方が良い訳?
普通逆じゃね?
そもそも何で聖女なのに命狙われるの?
疑問がポンポンと湧き出てくる。
「ダメなんですか?魔王様にはそういう人事に関する決定権持ってらっしゃらないんですか?え、もしかして人事権持った方、倒しちゃったとか?どの方ですか?ちょっと叩き起こしてメイド採用もぎ取ってきますので、教えてくださいませんか?」
俺が何も言わずに黙っていたからか、そう言って聖女は背後の扉の向こう側をじっと見つめた。
グッと右手を握ったり開いたりしている。
その中にはそんな権限持ったヤツはいないから。一般兵ばかりだから。
これ以上いたぶるのは可哀相だからやめてあげて。
「いや、多分俺でいいと思うけど──とりあえず、その拳を仕舞おうか」
そう言うと、今度はじっとこちらを見つめる。
もう手をニギニギはしていないが、正直に言うと・・・怖い。
無表情で何考えてるかわからないから怖い。
急に攻撃してきたらどうしようという考えが頭をもたげる。腐っても魔王なので即死は無いだろうが、痛いのは嫌だ。
「では、採用、してくれますよね?」
そう聖女に圧をかけて来られては、俺は頷くほかなかった。
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明日も更新です。
主人公は子供の頃からの虐待のせいだったり、スパイ活動に必要な為、無表情が常備です。
感情が無い訳じゃないので、内心はあんな感じです。




