聖女が空腹!
扉を開けたら、そこはブリザード吹き荒れる修羅場でした────
思わず開けた扉を危うく閉めそうになりながら、目を何度もこすって、ブリザード以外は見間違いじゃ無い事を確認した。
いや、だってね。
いつも後光───寧ろ仏を背負ってる温厚なクレトさんが、真顔な上に般若を背負って野菜を切ってて、更にその野菜が飛ぶように、矢のように積み上がっていく様を見たら、ね?
声をかけるタイミングを完全に逃してしまった私は、何かきっかけがないかと厨房内を見渡した。
ただ、いつものクレトさんじゃないクレトさんが怖かったからじゃないよ?ホントだよ?
さて、厨房を見渡せばいつもと違う事がすぐにわかった。
まず一つ目は人がいない事。
厨房にとっての書き入れ時もいつもなら終わった位の時間で、交代で昼休憩を取っていてもおかしくはないのだが・・・それにしてもクレトさん一人と言うのは妙だ。
それから二つ目はシンクにも流し台にも使用済みの食器がこんもり積み上がっている事。
凄く忙しい時だって、ここまでにはならない。
三つ目は献立がいつものメニューよりずっと乏しかった事。
皿の種類が二種類しかなく、食べかすから主食とスープだけだったようだ。
どうやらクレトさん一人で厨房を回しているらしい。でないと、この状況に説明がつかない。
そして、ここで回れ右!と言う訳にもいかないと言う事実に項垂れる。
だってお腹は減っているし、一人でどちゃくそ大変そうなクレトさんを放っておけないし。
「え、あの・・・」
クレトさん、と続けようとして言葉を引っ込めた。
目をギラつかせながら、けれど野菜を切る手はそのままでこちらを見るクレトさん。
視線で人が射殺せるなら殺せてそうな程の殺意のこもった目だ。いや、寧ろその包丁で斬りかかってきてもおかしくはないくらいには。
「・・・・・なんだ、聖女ちゃんか」
ははは、と口元だけ笑いながら、目が笑ってないの。めっちゃ怖い。
でも、殺気は少し引っ込んだ。マジで斬りかかる5秒前から、完全犯罪を考える犯人の殺気くらいには減ったと思う。
私、何もしてないよね?!と最近の行動を振り替えるが、もちろん心当たりはない。
「お昼、まだでしょ?冷蔵庫にあるから食べるといいよ」
「あ、わざわざありがとうございます」
言い終えると、クレトさんは再び大量の野菜を刻み始めた。
そして、やはり般若を背負っている。般若は出現自在のオブジェか何かなのかもしれないと思う事にした。
言われた通り冷蔵庫の中を覗いてみると、その中には大皿二枚分にこんもりとおにぎりが積み上げられていた。
まさか二皿分が私の為に用意された訳じゃあるまい。とりあえずその内の一皿を取り出す。
被された布巾を取ると海苔の香りが一気に広がり、そして一気に益々お腹が減った。
とんでもない爆音が自分の腹から聞こえてくる。
今更ながらお腹が減っていたと言う事を思い出した。
おにぎりを一つ手に取り、むさぼる。無言で口の中に放り込む。
仄かな塩っ気と海苔がうまい。
ガツガツガツガツ
「聖女ちゃん、悪いけど残りは魔王様の執務室のやつらに持って行ってくれないかな?」
三つ目のおにぎりに手を出した所で、そうクレトさんに声をかけられる。
むしゃむしゃむしゃ
ふむ。
魔王様の執務室って事は──あの風穴が空いてしまった執務室の補修だろうか。
ドロッドロに溶かされてたもんね。
補修かな?
うん、補修だね。
「はい、わはりまひた」
もぐもぐもぐもぐ・・・
もぐごきゅっ・・・
六個目のおにぎりを嚥下し終えると、おにぎりの山に再び布巾を被せる。
そして、ごちそうさまでしたとクレトさんに声を掛け、おにぎりの皿を抱える。返事は返ってくるが振り向いてはくれなかった。
あ、いや、クレトさんの背後の般若は振り向いたかもしれない。
・・・まあ、そこは気にしないでおこう。
もう随分と回復した手足に力を入れる。
すぐに戦闘は無理だろうが、普通に物を抱えて城内を歩くことは出来そうだ。
やはりクレトさんの作るゴハンは偉大!!
とりあえず厨房を後にして、魔王様の執務室に向かった。
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久々の投稿です。
私生活が忙しくて執筆出来ませんでした。今は私生活から逃避したくて執筆しております(笑)
少しずつ頑張りたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。




