聖女が独白!
目を開ければ自室の天井が目に入った。そこでぼんやりと状況を把握する。
ジャッジ様と戦って、魔力切れで倒れたんだっけ?
これはアレかな?やはり目の前で倒れた訳だし、ジャッジ様がここまで運んだのよね?
「・・・・・」
そこまで考え至って、衣服に乱れがないか、身体に違和感がないか真剣に確認する。もちろん匂いも要チェックや!
特に異常も違和感も異臭もなかったので、ホッと胸を撫で下ろした。
ホント、何事もなくて良かった!!
そう思っていいんだよね?!!
え?信用??
信用も信頼も親愛もない相手だしね。確認しちゃうのはしょうがないと思うんです。
え?権力者??
もう不審者か変質者としてしか扱ってません。
実際は雇用主の父親だろうと、今までの言動だけでも十分にポッと出の変質者を名乗る資格があると思う。
警備兵、取り締まってくれないかなぁ。
そんでもって牢屋に放り込んでくれないかなぁ。
それにしても、何事もなく自室のベッドに寝かせてくれたのはいいとして、早急に自室に鍵を付けなきゃいけないみたいだ。
だってジャッジ様が居室を知ってて、平気で入れるんだよ?夜とか安心して眠れんわ!
とりあえず起き上がる為に体に力を入れた。
ぐ、ぐぐぐ・・・
体が重く感じるのは、魔力切れと関係があるのだろうか。さっきみたいに見えない重りを付けられている感じではない。
まだ十分に体に力が入らない。やっとの思いで半身を起こしても、立って歩くには不安定で、何かに掴まりながらでないと危なそうだ。
さてどうしたものかと小窓の外を見やる。
外の明るさ的に言って、昼を少し過ぎたくらいだろうか。
「お昼ねぇ」
ジャッジ様がここまで運んだと言うなら、他の人達は私がこんな状態である事を知らないかもしれない。
ならば、誰かがお昼を運んでくれるのは期待出来そうにないし、最悪サボっていると思われていたとしても可笑しくない
となると、私がやるべき事は厨房まで行ってお昼を採る事と、力になってくれそうな味方を見付ける事、部屋に鍵を付ける事、そして出来るだけジャッジ様に見付からないようにする事、だ。
まず最初に厨房に行く事から始めよう。
ベッドから出ると足がプルプルと震えた。まるで産まれたての仔牛のようだ。その事にちょっと感動する。
と言うのも、今までこんなプルプルになった事がないからだ。カリバーン先生の訓練でよく皆がこうなっていた。私は手を抜いている訳でも無いのにこうはならなかったから、ちょっと憧れていたのだ。
まあ、でも自室をどうにか出る頃には、ちょっとでも憧れていてスミマセン!と言う気持ちになる。
五メートルも進んでいないが、それはもう大変だった。プルプルからガクガクへの進化である。産まれたての仔牛から杖ついたじいさんになったのだ。
じいさんにはまだ杖と言う素晴らしいアイテムがあるが、私にはない。壁に寄り掛かりながら足をガクガクさせ、厨房への道を進む。
自室は割とお城の隅っこで、厨房は概ね中央の辺りに位置する。つまりどう言う事かと言うと、今の私にとっては絶望的な距離だった。
まだ自室のドアから数メートルしか進めてない!
振り返ればまだ自室の扉が見える程度だ。さすがに今日中には辿り着けると思うんだけど・・・気が遠くなる。軽く白目が剥けるレベル。
が、私は諦めない!!
何故ならお腹が減ったから!
美味しいゴハンを思い浮かべれば、どんな苦境だって乗り越えてみせる!!
と、どんなに意気込んでみても劇的に進むペースが早まる訳でもなく・・・
とは言え、少しずつ魔力が戻ってきて、少しずつ体に力が入るようになった気がする。だけど、確実に腹ぺこメーターはガリガリ削られているのも事実。
ああ、食べたいなぁ、ステーキ丼。
がっつりカツカレーでもいい。
グラタン、ミートボールスパ、フィッシュ&フライ、から揚げetc・・・
嗚呼、本当にもう、多くは求めない。
塩むすびでいい。一個でいいから誰か恵んでくださぁ~い!!
ぐぅうぅぅ・・・
響き渡る自分の腹の音に肩を落としながら、一歩一歩足を進める。
美味しいゴハンを思い浮かべるのは失敗だったかもしれない。逆にお腹が減ってきた。
じゃあ、楽しい事を考えよう。
お給料とお休みが貰えたら何しよう?着の身着のまま魔王城に就職してしまったので、まずは私服が欲しいな。あ、美味しい物も買いたいな。
「・・・・・」
あれ?魔王城に来てからもう随分と経つけど、お給料もお休みも貰えてないって・・・大丈夫?
え?貰えるんだよね?雇用契約とか確認してないけども、ある、よね??
魔人の恋愛観の時間も随分と人間とは違っていたけど、まさかお給料やお休みまでゆるゆる~な時間感覚じゃあるまい。
年に一回の給料日とかじゃないよね?年単位での休暇取得じゃないよね?
それとも住み込み費用が差っ引かれて何も残らないパターン??
そこまで考えて、違う意味で震えてきた。
いや、だって前の職場で働いてた分はもちろん貰えないだろうし、組織からだって(死んだ事に先生がしてくれるって言ってたから)退職金なんて出ないだろうし。
そもそも、魔王城で人間の使う通貨が使えるとは思えないけど・・・。
今までの所持金ゼロで、この先もゼロだったとしたら?
運よくババアになっても働かせて貰えるとして、働けなくなったら??
老後が心配になる。
備えが無いって、ただの恐怖。
ヤバイ。
ヤバイヤバイ。こんな実入りの無い話はここまでにしよう。
心的被害が尋常じゃなくなる。
「・・・・・」
次はもっと建設的な話題にしよう。
題してジャッジ様をやっつける十の方法!
十個も見付かるかどうかはわかんないけど、とにかく考えてみよう。
まず、手っ取り早いのは、毒殺だ。手元に毒は持っていないからすぐに実行は難しそうではあるが、確実な手段であろう。
その為には魔人に即効性のある毒薬を入手しなければならない。
人間に対する毒物に関してはそれなりに持っているが魔人に対する毒物はサッパリである。そう言うのに詳しそうな医務室の誰かにそれとなく聞いてみよう。
次に高い所から突き落とす。
魔人は人間よりずっと丈夫だし、元魔王様なのだから普通の魔人より頑丈だろう。突き落とすと言うより、投げ落とす方が確率が上がると思う。もし死ななくても、大怪我で身動きが取れなくなるくらいはしてほしい。
窓掃除の時に近付いて来たら、手が滑って落とせばいい。
戦闘でとなると、難易度がグンと高くなる。
始める前から詰んでいる。
戦闘で倒すには経験と筋力や瞬発力、色んな物が全体的に足りてない。今朝実際に戦ってみて感じた事だ。魔法センスに至っては月とスッポン並の開きがある。
そうなると、罠を張ったりするのがいいのだろうけど・・・
誰にも気付かれずに一人で罠を仕掛けるのには実質的に無理があった。罠を仕掛ける時間もだし、いつの間にか背後にいる変態に気付かれずに実行出来るかも疑問だ。
もし罠を仕掛けれたとしても、そんな場所まで誘導して罠に嵌めれるかも怪しいし、庭師や衛兵達に協力してもらえねば、そんな場所の確保さえ難しい。
協力者がいれば問題解決かもしれないが、果たして元魔王様を抹殺するのに協力する者がこの魔王城にいるだろうか?権力者の実父であるし、元上司である。
犯罪的な臭いはプンプンする男であるが、私以外にはそこまで嫌われていない気がする。
昨日の大将軍様の様子から察するに、軍部は変態の配下だと考えても差し支えないだろう。城内への罠の設置も、衛兵への協力も期待薄だ。
後は社会的に抹殺すると言う手段があるにはあるが、果たしてあの変態である。社会的に抹殺出来るかどうか、社会的に抹殺されてくれるような可愛い神経の持ち主か・・・答えは否。
そこは悩む必要もなく答えられる。あの変態クソ野郎はそんな些末な事は気にしない。絶対に気にしない。
そこが変態が変態たる由縁である。世間様の目が気になるなら、あんな変態活動はしない。言ってしまうなら、セクハラの権化である。
それから可能そうな方法はと言えば、ハニートラップであるが・・・ハニーな部分で私の体が拒否しそうだ。もちろん心も絶賛拒否するが。
と、ここまで考えて“やっつける方法”ではなく“殺害方法”になってしまったが・・・
まあ、致し方ない。
相手が変態な訳だし。
で、だ。
殺害方法は刺殺、絞殺、毒殺・・・等々幾種類もあるが、戦闘能力などの差を鑑みるに、計画に練り込める手段は極端に限られてくるし、勝算は隕石が自分の頭に落ちてくるくらいの低さだ。
どれも実行不能とまでは言わないが、実現出来なさそうだ。
殺害できなくとも、ギャフンと言わせるくらいはしたい。
ジャッジ様の嫌いな食べ物を無理矢理食べさせるとか、ジャッジ様の靴にバナナを仕込むとか、そんなんくらいしか後は思いつかない。
報復と言うより悪戯レベルであるが、仕方がない。それくらい実力に差がある。
まずはこの実力差をどうにか縮めないといけない。
「・・・・・」
それはやっぱり鍛練しかないのだが、どう鍛練すべきか。
体術に関しては柔軟に対応出来る訓練が必要だ。軍部の朝の訓練に毎日参加させてもらっていたが、体力、瞬発力メインで技術や経験が物を言う実践的な訓練メニューはやってこなかった。
カリバーン先生にお願いした方が確実なのだが、今は悠長にカリバーン先生の帰りを待ってなんていられない。今後はそういったメニューにも参加させてもらおう。軍部の大将軍様にお願いすればきっと大丈夫だろう。
対する魔法である。
これは確実に自力ではどうにもならない課題だ。組織にいた時に細やかな魔法の制御は諦めた。
でも、ドドーン、どかーん、のままじゃダメだ。あんな訳わかんない魔法使われたら、また魔力切れでいいようにされてしまう。
誰かに習い直す必要があるが、はて、一体誰に?
大将軍様はどうだろうか?軍部の朝の訓練に参加させてもらっている時には魔法系の訓練はしていなかったが、きっとやっているだろう。
ああ、でもカリバーン先生の指導でも私の魔法の腕前はそんなに上がらなかった。
果たして上達するのだろうか・・・
不安しか浮かばないが、きっとどうにかなるだろう。
もしどうにもならなかったとしても、他の部分でフォローしよう。今までがそうだったように。
そんなこんな考えていると、ようやく厨房への扉が見えてきた。
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