序
ひらり。ひとひら落ちる度、人々の嘆きはより深く。ひらり。こぼれる木の葉をながめる度に、村に不安が凝り固まる。焦燥は伝染し、恐れが村を覆い尽くす。収穫の時を迎えてなお、痩せた稲穂に手を触れて、大人たちは山を――深山を見上げ、決断する。
『むぐ、むぐ、よぐ、よおぐ、お聞ぎ』
降り積もった紅葉の原に、子供が一人、横たわっていた。およそ人が足を踏み入れぬ、山の奥深く。そこに、木葉が色濃く散り重なり、積もる。子供の存在を掻き消すように、それは絶えず降りそそいで満ちる。緋色に溺れ、少女はただ瞼を閉じて待っていた。
深山には鬼が住む。
少女が生まれたのは、とある山間の村だった。古い因習の残るその村を、近隣の村々は深山の民と呼んで恐れた。深山の民は、鬼の民。鬼に従い庇護を受けた、化け物の民である。かの恩恵を受けた村は、どんな冷夏でも実りがつき、どんな豪雨も難を逃れた。しかし、ある年。ひどい日照りが村を襲った。
『むぐ、むぐ、おめは――』
深山の庇護も、このときばかりは災いを退けることができなかった。
(おかあさん)
目を閉じた子は、零れ落ちる秋に身を任せていた。その耳に、木葉をかき分ける乾いた足音が届く。鬼が、近づく。閉じた瞼が小刻みに震えたが、彼女はもう泣かなかった。
『なんだお前、泣いてるの』
記憶の向こうで響いた声。あの声に――答えたことが、過ちだった。




