第1.4章 もう一度、脱出計画。今度こそ失敗しませんように。
病室に長い沈黙が残った。
「……」と、俺は沈黙した。
「……ん?」と、俺は声を漏らした。
目を開けた。
「があああ、はっ――!」と、俺は息を吸いかけて、途中で止めた。
天井。
ベッド。
モニター。
まだここだ。
俺はぎこちなく笑った。
「まだここか……」と、俺は呟いた。
今度は何かが違った。
ゆっくり起き上がり、自分の手を見る。
「なんで俺は……異常に元気なんだ? しかも、異常に……幸せ?」と、俺は言った。
身体は壊れているはずだった。
正気などとっくに消し飛んでいるはずだった。
動けるはずがない。
腕を上げる。
言うことを聞く。
「いいね……まあ、いいか」と、俺は言った。
よくない。
まったくよくない。
なぜ俺の身体は、さっき経験した恐怖と痛みを忘れているのに、頭だけは一秒残らず覚えている?
ここの技術が凄すぎるのか。
夢だったのか。
それとももっと悪い答えがあるのか。
全身を確かめ、手足が持っていかれていないことを確認してから、俺は部屋を見回した。
そして息を吐く。
そこにいた。
看護師が椅子で眠っていた。
疲れ切っている。
「……看護師」と、俺は呼んだ。
「ひゃっ、はい!?」と、看護師が飛び起きた。
俺は荒い呼吸を抑えながら彼女を見た。
「あなたは、数時間前にこの廊下とこの部屋で俺が優雅に恥をさらしたところを見た、あの同じ看護師さんでしょうか?」
「えっと……はい? どうしてですか?」と、看護師が尋ねた。
「なんでもありません! 今の質問は忘れてください!」と、俺は言った。
俺は彼女の背後を指差した。
「それより、その後ろの格好いい機械は何です? すごく良さげに見えるんですが」
彼女は振り向く。
「ああ、あれはですね――んんっ!?」と、看護師が言いかけた。
彼女が目を逸らした瞬間、俺は動いた。
背後から掴み、腕を喉に回す。
看護師はすぐ暴れた。
肘が脇腹に入る。
爪が腕に食い込む。
そして肩まで痛みが走るほど強く噛みつかれた。
「ぐっ――!」と、俺は呻いた。
それでも腕に力を込める。
殺すほどではない。
止まる程度に。
やがて彼女の身体から力が抜けた。
部屋が静かになる。
俺は彼女の上に立ち、息を荒げた。
噛まれた腕がずきずき痛む。
「申し訳ありません、看護師さん」と、意識のない彼女の耳元で俺は囁いた。「あなたは少し怪しすぎる。あるいは単純に、俺をかなり苛立たせる」
腕をさすって息を吐く。
「さて……へへへへ――げほっ」と、俺は笑いかけて喉を詰まらせた。
壊れた喉が邪魔をする。
情けない。
「とにかく、やるしかない。俺は帰りたいんだ」と、俺は言った。
俺は看護師の医療服を脱がせた。
誤解するな。
着替えながら、腹の奥に妙な感覚があった。何かがおかしい、と。でもその考えは押し込んだ。
罪悪感を抱いている暇はない。
動かなければ。
ゴミ箱の裏に隠しておいた割れた薬瓶の欠片を、踵で引き寄せて拾い集める。自分を切らないように、小さな破片まで全部。
床に脱ぎ捨てた自分の服が足に当たった。
放置するわけにはいかない。ベッドの下の暗がりへ蹴り込む。
床にしゃがみ、割れたガラスをパズルみたいにつなぎ合わせた。瓶っぽい形になればいい。片側を立てると別の側が崩れ、また立てるとまた崩れる。
永遠に感じた。
汗が止まらなかった。
廊下の物音のたび、肩が跳ねた。
どうにか破片を並べ終え、残りの三本の瓶と見比べる。
同じ奇妙な曲線。
同じ汚いミミズ文字。
読めはしない。
だが完璧に読む必要はない。
一致すればいい。
少し考え、俺は修復もどきの瓶を掴み、近くの金属カートからさらに二本の瓶を取った。
そしてトレイから重い金属器具を拾う。
振りかぶった。
ガシャァン!
窓が割れた。
音が廊下に響く。
「クソ、クソ、クソ!」と、俺は焦った。
警備がすぐに来る。
俺は外へ出て、草の上に光る液体を一本まるごと撒いた。さっき立っていた場所に、わざと目立つ水たまりを残す。
次に、空の瓶を割れた窓枠へ置いた。鋭いガラスの縁に引っかかるように。
最後に、標準巻き戻し薬を部屋の中央へ投げ戻した。
魔法の効果が始まる。
床に眩い光が弾けた。
罠は仕掛けた。
走る時間だ。




