第41話 大体巳二つ時(みふたつどき)だな
8月12日
「ふぁぁ~あ。・・・えと・・・・今何時だ?」
『今は大体巳二つ時だな』
返答をしたのは管狐である。この様な古臭い時間の表し方は、いくら何千と生きている葵でも
使いはしない。
巳二つ時・・・巳の刻が9時から11時。4等分してそのうちの二つ目だから大体10時くら
いか・・・。
「じゃあ、そろそろ起きるか」
ベッドから起き上がり、すぐに部屋の中の箪笥へと向かう。
服を着替えていたときに、家のチャイムがなる。
今日はあいつ等と別に約束はしていなかったから関係は無いのだろう。そう思っていたが、何
者かが俺の部屋に近づいてくるのに気付いた。
「勇。爺さんが呼んでるわよ。なんか見た事無い客も一緒にいるけど」
「へえ、どんな人?」
ドア越しに会話を交える。
「40超えたおっさんよ。外見は少なくてもそうね」
「俺も40超えたおっさんなんて知り合いにいないけど?」
「私に聞かないでよ。それより早くしなさいよ」
「おう。てか別に戻っててもいいぞ」
「そう」
「どうもな」
その声を聞いたか聞いてないか。それは知らないが祝詞は自室へと戻って行った。祝詞を自室
に籠もらせる事から察するに陰陽師関係だろう。最近は尋ねてくる人達は減っていたのだが今
日はまたどうしたんだ?
そう考えながら着替えを終わらせ、下に降りる。
「じっちゃん。用だって?」
「おお、勇よ。来たか」
「入るぞ」
すりガラスの引き戸をあけると、畳の上の座卓に向き合って座るじっちゃんと客。
「こんにちは」
「いえ、こちらこそ」
一応の礼儀として正座をして挨拶をする。そして相手も返してくる。
挨拶が終わり、俺はじっちゃんの隣に胡坐を掻く。
「こいつの名は西城山学と言う。ちょっとした知り合いでな」
「で、その西城山さんと俺とどういう関係が?」
「それはな」
じっちゃんは西城山さんにチラリと目配せし、説明しろと念を込める。
「実は、私の娘が3年前に陰陽師に志願をしまして、その切欠を作ったのが貴方のお爺さん。
義男さんだったんです」
「へえ、娘さんが陰陽師に・・」
「ええ、3年前から京都の方で修行をしていまして、ついにこの夏その修行が終わりまして」
「3年で!!?」
普通なら3年で修行課程を完了するのは相当の天才でないとできる事ではない。5年でも短い
方なのだから。
「ええ、修行仲間の方や、先生も驚いておりました。で、配属地選択に義男さんのいる場所。
つまりここを選択しまして。・・・」
「つまり、未熟者を鍛えろという事じゃよ」
西城山さんの話がまどろっこしかったのだろう。その言葉を遮って、じっちゃんが簡潔に話す。
確かに俺も鬱陶しく感じていた所だったので、言っちゃ何だがありがたかった。
先生とは育成委員会の育成委員で、委員会の中の役職では方針決定委員、風紀委員、生活管理
委員など多くの役職が存在し、育成委員会はさらに統括委員会というもう一つの顔を持ち、そ
れぞれの役職が両方の委員に属しているもの達で構成されている。
「まあ、つまりそう言う事です」
「お前ももうちょい簡潔に話せ」
「性分なもので」
つまり、薫のような奴がもう一人増えるという事だった。
「どうかお願いできないでしょうか」
「・・・。まあ、もうそう言う立場の奴いるし、今頃一人二人増えてもかまわねえけど・・・」
「じゃあ、よろしいのですか?」
「いや、俺はいいけどここに戦力固まり過ぎてねえのか?」
じっちゃんに顔を向けて尋ねる。
「警備範囲を広くすれば大丈夫じゃ」
「・・・そう」
ちょいと嫌だがしょうがないのだろう。もう決まってしまった事だ。
「・・・分かりました。娘さんはきっちり鍛え上げます」
「ありがとうございます!!」
西城山さんの顔が通常の3倍明るくなり、身を乗り出してお礼を言ってきた。
「では、今度から娘をよろしくお願いします」
「はい」
「ところで、お前はいつ出発するんじゃ?」
「一応出張も兼ねて来ていますので、明後日の夜出発です」
「そうか。夜は気をつけるんじゃぞ」
「分かってます。・・・あ、そう言えば先生の方達からこれを、勇さんにと」
そう言われ、勇は小さな箱を渡された。
―――――理の書
・・・時の表し方
時刻については、現代の23時から翌1時までを子の刻とし、以下、丑、寅、…と続いて、11時から13時までを午の刻とした。現在、夜0時を「子夜」、昼12時を「正午」、正午より前を「午前」、正午より後を「午後」と称するのは、これに由来する。怪談などで用いられる「草木も眠る丑三ツどき」とは今日でいう午前2時半ごろのことである。




