魅了魔法と誤解を解きたいだけなのに 3
支給されたお仕着せに着替えると、サーシャが屋敷を案内してくれることになった。
厨房やリネン室などの各部屋を回りながら、その場所で働く使用人仲間たちに挨拶をする。
宵の魔女ではなくマグノリアとして師匠やロータス以外の人と話すことはなかなかないため、挨拶する度に緊張していた。
大体の使用人たちは当たり障りのない言葉をかけてくれたが、中には好奇に満ちた眼差しを向けてくる者や、あからさまにマグノリアを見下すような目つきで見てくる者もいた。
庭師への挨拶も兼ねて庭園に出ると、横を歩くサーシャが足を止めた。
つられて足を止め、彼女の視線の先を見ると、三人のメイドが体を屈めて地面を見つめている。
「あなたたち、なにをしているの?」
「サーシャ様!?」
メイドたちはバツが悪そうな顔をして、背筋を伸ばす。
その内一人は、泣き腫らして目が真っ赤だ。
先ほど声を上げたメイドが、泣いているメイドを慰めるように彼女の肩に手を置く。
「実は、この子がお母様の形見の首飾りを落としてしまったので、探しているんです」
「まあっ! この屋敷で落としたのは確かなの?」
サーシャの質問に、泣いているメイドがこくりと頷いた。
そんな彼女を見ると、胸がズキリと痛む。
自分も家族の形見を持っているから、失くしたときの絶望感がどれほどのものか、よくわかる。
失せ物を見つける魔法を師匠に教えてもらう前に、母親の形見であるブローチをどこかで落としてしまったときは、ずっと泣いて師匠を困らせてしまったものだ。
その際に失せ物を見つける魔法を教えてもらい、ブローチが手元に戻ってきたときはとても安堵した。
「はい、出勤したときには持っていたんです。だけど、さきほど服の上から触れたときにはなくなっていて……。始業してすぐ、屋敷に飾る花を摘んだときに落としたのだと思います」
「事情はわかったわ。一時間ほど時間をあげるけど、その後は仕事に戻りなさい。他の者たちには、見つけたらすぐに持ってくるように言うわ。どんな首飾りなの?」
「ありがとうございますっ! 銀色の、オーバル型のロケットです。中には、家族の肖像画が入っています」
(銀色の、オーバルのロケット……。うん、見つけられそう)
泣いているメイドの言葉をもとに、頭の中に形見の首飾りを思い浮かべる。
(失せ物を見つける魔法を発動させるには、あのメイドの涙か髪の毛をもらわないと……)
魔法には、発動させるために必要な材料や条件がある。
失せ物を見つける魔法を発動させるには、対象物を頭の中に思い描くことと、その持ち主の体の一部が必要なのだ。
さりげなくそれらを頂戴するために、泣き腫らしたメイドに駆け寄り、彼女を抱きしめる。
髪をもらうことはできなさそうだったので、指先で彼女の涙を拭った。
「大切な形見を失うのは辛いですよね。あの、私も今から一緒に探していいですか? 人が多い方が、早く見つかるでしょうし」
魔法を使えばすぐに見けられるだろうが、魔法を使っているところを見られるわけにはいかないから、一人で行動したい。
「あちらを見てきますね!」
「マグノリアさん!?」
サーシャに止められる前に駆け出してしばらく走ったあと、周りに誰もいないことを確認する。
幸にも、サーシャはついて来ていないようだ。
メイドの目元から採集した涙を乗せた指を目の高さまで上げると、頭の中に銀色のオーバル型のロケットがついた首飾りを思い浮かべる。
「『大地を照らす光よ、姿を消した片割れのもとに導きたまえ』」
呪文を唱え終えると、指先にある涙が金色の光に包まれた。
その光は指先から離れると、地面に落ちて金色に光る道しるべを描いてゆく。
道しるべを辿っていくと、花壇で咲き綻ぶ花の合間から光が見える。
しゃがんで花たちの根元を探ると、指先に金属の冷たい感触がした。
それを掴み、引き寄せると、泣いていたメイドが話していた通りの首飾りが姿を現す。
「よかった、見つけた!」
見つけられて喜んでいると、背後から足音がした。
「やあ、麗しの魔女様。なにか探しているのかい?」
「フン、もう見つけたから、あなたの助けなんていらないわ」
アドルファスの声が聞こえたから、条件反射でいつものように答えてしまった。
そのことに気づき、片手で口元を覆う。
そんなことをしても、言わなかったことにはできないというのに、体が勝手に動いたのだ。
振り返り、視線の先にいたのは――仮眠をとっているはずのアドルファスだった。
胸元まで開いている黒色のシャツと黒色のスラックスを身につけており、両腕を組んでこちらを見ている。
「やっぱり、宵の魔女だったんだね。今朝、馬車の中から横顔を見かけたときから、そんな気がしていたんだ」
今は髪と瞳の色を変えているし、化粧も服装も違うのに、どうしてバレたのだろう。
どうにか弁明しなければならないのに、驚いてしまったせいで、声が出ない。
「ようやく私に会いにきてくれたんだね。とっても嬉しいよ」
あっという間に距離を詰めてきたアドルファスの水色の瞳に、情けない表情の自分が映った。




