悪辣な(?)宵の魔女 4
ドキドキとしながらロータスの顔色を窺うと、彼の眦が吊り上がる。
断られるかもしれないと思い、返事を聞く前から諦めた気持ちになった。
「こんなことに、〝一生のお願い〟を使うな! 紹介状なんて一枚でも二枚でも書いてやるから、〝一生のお願い〟というものは、いざというときのためにとっておけ!」
思いがけず、願いは叶えてもらえることになり、茫然とする。
ロータスは口調こそぶっきらぼうだが、マグノリアに甘い従兄である。
彼自身に妹や弟がいないため、幼い頃からマグノリアと彼女の弟をとても可愛がってくれていた。
「ほ、本当にいいの? だって、王弟殿下の魅了魔法を解いたらすぐに辞めるから、迷惑がかかるかもしれないよ?」
「グリフィン侯爵家は、それくらいで立場が揺らぐような家ではない。それに、なるべく角が立たないように辞める方法を考えておく。それより、メイドとして働いている間、宵の魔女の仕事はどうするんだ?」
「ジュニパーに手伝ってもらうつもり。ジュニパーは私の姿に変身することができるし、私よりも魔法が使えるから」
「それならいいが……無理はするなよ。なにかあれば、いつでも頼れ。私も父上も母上も、マグノリアをうちの養女として迎えたい気持ちに変わりはない。宵の魔女の仕事が辛くなれば、いつでも辞めるといい」
「……ありがとう。魔女の仲間やお師匠様が、ときどき会いに来てくれるから、大丈夫だよ」
家族を失ったときも、ロータスと叔父と叔母は、マグノリアを養女として迎えようとしてくれた。
彼らの優しさは嬉しかった。
自分の居場所がこの世からなくなってしまわないことに安堵したが――本当に、それでいいのだろうかと思い悩んだ。
――妹夫婦が襲われたのは、マグノリアの誘拐を狙った襲撃に巻き込まれたからなのではないか。
叔父たちがこっそりと話していた内容を偶然聞いてしまい、自分が元凶かもしれないと知ったのだ。
たしかに、その日はマグノリアも一緒に出かける予定でいたのだが、風邪をひいて屋敷に残っていた。
もしも両親らと一緒に出かけていたら、誘拐されていたのかもしれない。
魔女とは稀少な存在で、魔力を持って生まれる者自体が稀少なのだ。
女の子だけが稀に魔力を持って生まれ、望めば魔女に弟子入りして魔女としての人生を歩む。
たとえ魔女にならなかったとしても、特別な力を持っている彼女たちを権力者らは欲していた。
だから、マグノリアが魔力を持っていることを知った両親は人攫いから彼女を守るために、いつも護衛をつけてくれていたのだ。
自分がいては、周りの人を不幸にしてしまう。
そう考えていたマグノリアの前に、今は引退して隠遁生活を送っている先代の宵の魔女だったエリンが現れた。
魔女は世代交代制だ。
名前だけではなく、容姿や性格も受け継ぐため、これまでに宵の魔女を務めた者たちは自分の髪を銀色に、瞳の色を緑色に変えてきた。
悪女に見えるような露出度の高い宵闇色のワンピースを着ている。
奔放に振舞い、意地悪く話さなければならないという、決まりもあった。
そうして、夜を纏ったような見目の、意地悪な魔女としてのイメージを保ってきたのだ。
わざわざ悪い魔女になる理由は、彼女たちが魔法を正しく使うため。
なぜなら、頼りやすい魔女になると、人々はすぐに魔女を頼って、堕落してしまうからだ。
それに、宵の魔女は魔女のなかでも一番、王族と関ることが多いため、魔女の中でも一番意地悪な性格を演じている。
本当はどの宵の魔女たちも、心優しい者たちだ。
エリンもまた、穏やかな性格で心優しく、幼いマグノリアを愛情いっぱいに育ててくれた。
ちょうど母親と同じ年頃だった彼女はマグノリアを本当の娘のように大切にしてくれたので、おかげで家族を失った悲しみを乗り越えられたのだ。
エリンには心から感謝している。
「それにしても、アドルファス殿下はなぜ、宵の魔女に魅了魔法をかけられたといっているのだろうか。私は魔法に詳しくないが、魔法をかけられたことは被術者にはわからないものだと思っていたのだが、違うのか?」
執事に紹介状を書く道具を持ってくるよう言いつけたロータスが、こめかみをさすりながら尋ねてきた。
「ある日いきなり、あの悪辣な宵の魔女のこと好きになっていたら、おかしいと思って魅了魔法をかけられていることに気づいたんじゃないかな?」
宵の魔女は嫌われ者なのだから、惚れるなんてあり得ないのだ。
しかし、ロータスはその答えに満足していないようで、眉を顰めている。
「あのアドルファス殿下のことだから、本当に魅了魔法をかけられているとは思えないのだがな。屋敷で働くときは、アドルファス殿下に気をつけてくれ。もしもマグノリアを泣かせたら、絶対に許さない」
いくら浮名を流している王弟殿下でも、一介のメイドには興味を示さないと思うのだが、ロータスが鬼気迫る顔で言ってきたため、とりあえず頷いておいた。




