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毒舌ダウナー少女の鋼魔法  作者: たなお
魔法使い系配信者
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44/52

マホトルch炎上

「配信開始なのだ!」


 マホトルが勢いよくエンターキーを叩くと、ノートパソコンの画面が切り替わり、配信が始まった。


「こんばんはなのだーっ!」


 さっきまででも十分うるさかったマホトルの声が、さらに一段高くなる。


「一日一配信! 今日も無事にノルマ達成なのだ! さあリスナーども! ちゃんと毎日頑張っているマホトルを褒め称えるのだあああああっ!」


「…………」


 配信用の声らしい。


 テンションが普段の二倍くらいになっている。


 あたしは欠伸をすると、ちゃぶ台に頬杖をつきながら、画面を見た。


【現在の視聴者数 52人】


 数字が少しずつ増えていく。


 70…100…120。


 コメント欄も、ものすごい速さで流れ始めた。


『今日ギリギリじゃん』


『ノルマ達成えらい』


『知らない女いる?』


『誰?』


『横の子かわいい』


「おっとぉ?」


 マホトルがコメントを見て、ニヤリと笑う。


「さっそく気づいている者がいるようなのだな!」


『誰なの?』


『新しいメンバー?』


『コラボ?』


『めっちゃ眠そう』


「まあまあ、焦るでないのだ!」


 マホトルはカメラへ向かって人差し指を振る。


「まずは今日のマホトルについて色々話させてもらうのだ!」


「…………」


 そこから三分ほどマホトルは雑談を始めた。


 今日の天気、気温、昼に食べたもの……


 そんな、本当にどうでもいい話を続けた。


「…………ふあ」


 眠い。


 めちゃくちゃ眠い。


 あたしは隣で話し続けるマホトルの声を聞きながら、何度目か分からない欠伸をする。


 そんな間にも――。


【現在の視聴者数】の数字がどんどん増えていく。


 201…334……480……


 へー……意外と集まってる。


 あたしは全然知らなかったけど、マホトルは名のある配信者なのだろうか?

 1万人集める大物配信者とは違うだろうけど、3桁も人を集めるのは、さすがに凄い。


 いわゆる中堅と呼ばれる層だ。


「よーし! だいぶリスナーも集まってきたのだ!」


 マホトルが満足そうに画面を見ると、あたしの肩をぽんと叩いた。


「では!」


「……ん?」


「さっきからみんなが気になって仕方ない、今日のスペシャルゲストを紹介するのだ!」


 マホトルがあたしを指差す。


「ほら! 自己紹介するのだ!」


「…………」


 自己紹介?


 そう言われても……


 配信なんてやったことないし、何を言えばいいのか分からない。


 自己紹介だから、とりあえず名前を言うか……


「……カレン」


「短いのだ!」


「……他に何言えばいいの?」


「趣味とか! 好きなものとか! 何かあるだろなのだ!」


「……寝ることかな」


 コメント欄の流れが一気に速くなった。


『かわいい』


『声落ち着いてる』


『めちゃくちゃ眠そうで草』


『カレンってあのカレン?』


『大会で見たことある』


『あ、この子知ってる』


 コメント欄を見たあたしは少し驚いて「……へー」と反応する。

 マホトルの視聴者は意外とあたしを知っているらしい。


「ふっふっふー!」


 マホトルが得意げに胸を張った。


「気づいた者もいるようなのだな!」


「…………」


「このカレンは、近々マホトルも参加する《配信者特別大会》へ――なんと!」


 マホトルが大げさに両腕を広げる。


「配信者でもないのに特別招待された、一般参加選手なのだ!」


『特別枠?』


『結構強い子じゃなかった?』


『ビックバンマドンナが目つけてる子?』


『あの大会出るの!?』


「そうなのだ!」


 マホトルが勢いよく机を叩く。


「大会でも何度も好成績を残している、かなりの実力者なのだ!」


「……ふあぁ……」


 また大きな欠伸が出るが、マホトルは構わず話を続ける。


 ホント夜なのに元気だね……


「それに! 今日は特別に! カレンと仲良くなったマホトルが、自宅へ招待してもらって――」


「……そうだったっけ?」


「そういうことにしておくのだ!」


「……ふーん」


『いや眠そうすぎるだろ』


『大丈夫?』


『目半分閉じてるぞ』


『今にも寝そう』


『この子まだ中学生じゃなかった?』


『もう夜だよな?』


『寝かせてやれよ』


「…………」


 コメント欄の雰囲気が、少し変わり、マホトルは少し慌てた様子で画面に顔を近づけた。


「な、なんなのだ? マホトルなにかマズいことしちゃったのだ?」


『マホトルが無理やり呼んだの?』


『本人さっきからずっと眠いって言ってない?』


『普通に帰してあげたら?』


『顔めちゃくちゃ眠そう』


 マホトルが慌てて両手を振る。


「違うのだ! マホトルは無理やり出演させてなどいないのだ!」


「……ん」


「ちゃんと本人に許可をもらったのだ!」


 マホトルは慌てているが、強い眠気に襲われたあたしの耳には何も入ってこない。

 眠い目を擦って、なんとか起きようとするが……頭が重い……


『本人もう限界じゃん』


『返事もほぼ「ん」しか言ってないぞ』


『草』


『寝る寸前』


「カ、カレン!」


「……ん」


「大丈夫なのだ!?」


「……眠い」


「ほら! 普通に喋れるのだ!」


 マホトルは「あはは…!」と作り笑いで強がるが、コメント欄の勢いは加速する。


『眠いって言ってんじゃねーか』


『寝かせたれ』


『低評価押しました』


「な、なんでなのだああああっ!」


「……」


 マホトルが頭を抱えるが、その声もコメントも……だんだん遠く聞こえてくる。


 頭が重くて身体に力が入らない。


 視界もぼんやりしてきた。


「カレン? 次の質問なのだ!」


「……ん」


「マジッカーを始めたきっかけは――」


「…………」


「カレン?」


 ストン。


 そこで――意識が途切れた。


 ◇ 


「ちょ、ちょっとカレン!?」


 マホトルの声が聞こえたような気がしたが、もう目を開けることもできず、あたしはちゃぶ台の上へ突っ伏す。


「カレン! どうしたのだ!?」


「……すー……すー……」


「配信中なのだああああああああっ!」


『寝たwww』


『マジで寝たじゃん』


『限界だったんだろ』


『かわいい』


『いや笑い事じゃなくね?』


『さっきから眠そうだったじゃん』


『マホトルお前……』


『無理やり出したの?』


『中学生を夜まで配信に付き合わせるなよ』


『寝かせてあげて』


『マホトル最低』


 画面を見たマホトルの顔から、一気に血の気が引いていく。


「待つのだ! 違うのだ!」


『何が違うの?』


『本人ずっと眠いって言ってたよな』


『かわいそう』


『再生数のために利用した?』


「違うのだああああああっ!」


 コメント欄が、さらに加速していく。


「これは誤解なのだ!」


『何が誤解なんだよ』


『謝れ』


『これは駄目だろ』


「や、やばいのだ……」


 マホトルの表情が一気に青ざめると、わなわなと声が震える。


「これは……やばいのだああああああああああ!!!」

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