ダウナー少女はとにかく眠い
あたしは強烈な眠気と戦いながらシャワーを浴び、浴室を出た。
「……ねむ……」
身体を拭いて服を着ると、そのまま洗面台の前に座り、ドライヤーで髪を乾かしていく。
ごおおおおお――。
「…………」
温かい風を浴びていると、余計に眠くなってきた。
まぶたが重く、頭もぼーっとする。
座っているだけなのに、身体がゆらゆら揺れていた。
「……やば……寝そう……」
配信なんて、安請け合いするんじゃなかった。
さっきのあたしを止めたい。
『眠いなら断って寝ろ』
そう言ってやりたい。
「……ふあぁ……」
大きく欠伸をした――そのとき。
バーン!
勢いよく脱衣所の扉が開いた。
「カレーン!」
「…………」
「メイク道具持ってきたぞー!」
ハヤトだった。
片手には、見慣れたメイクポーチ。
「せっかく配信出るんだろ? だったらバッチリ決めていこうぜ!」
「……元気だね」
「カレンが元気なさすぎるんだよ!」
ハヤトの後ろから、ぴょこんと白い兎耳が現れる。
マホトルもついてきていた。
「ほうほう! 配信前の準備なのだな!」
「……なんであんたまでいるの?」
「今日の主催者なのだ!」
「……家の中まで普通についてくるんだ」
「許可はもらったのだ!」
「誰に?」
「お母様なのだ!」
「……いつの間に」
相変わらず行動が速い。
するとハヤトが、まだ少し湿っているあたしの髪を見た。
「あー、もうちょいちゃんと乾かした方がいいな」
「……めんどい」
「そこまでやったなら最後までやれよ」
「……ハヤトやって」
「おう!」
ハヤトはあたしからドライヤーを受け取った。
「なんで嬉しそうなの?」
「カレンの世話焼くと合法的に触れるだろ?」
「……変なの」
ごおおおおお――。
ハヤトが手櫛で髪をほぐしながら、丁寧に風を当てていく。
眠くてまぶたが重い……
「寝るなよ?」
「……努力する」
しばらくして、ドライヤーの音が止まった。
「よし。乾いた」
「……ありがと」
「次メイクな」
「……ん」
ハヤトがポーチをカチャカチャと開く。
さっきまで騒いでいたのが嘘みたいに、急に手つきが変わった。
「カレン、顔こっち」
「……ん」
「目閉じてくれ」
言われた通りに目を閉じる。
ハヤトはまず髪を邪魔にならないよう留めてから、あたしの顔を軽く確認した。
「風呂上がりだから、いつもより肌乾燥しやすいかもな。保湿からやっとくか」
「……任せる」
「はいよ」
ひんやりした感触。
スキンケアを済ませ、その上から薄く下地を伸ばしていく。
こういうときだけは、本当に手際がいい。
「…………」
マホトルが、横からじーっと見ている。
「……なに?」
「いや……」
マホトルが驚いたように目を丸くした。
「おまえの彼氏、めちゃくちゃ優秀なのだ。羨ましいのだー!」
マホトルが頬を膨らませる。
「配信前のメイク、地味に面倒なのだ! 自分でやると時間かかるし、急いだら失敗するし!」
「……ふーん」
「それを全部やってくれる彼氏がいるなんて最高なのだ!」
「……はあ」
彼氏ではなく、幼なじみなんだけど……
けど訂正してもマホトルは聞き入れないだろう。
もう面倒臭い。
勘違いしたままでいてもらおう。
「しかし……」
マホトルは顎に手を当て、感心したようにハヤトの手元を見る。
「男なのに、ずいぶん慣れてるのだな」
「本とか動画とか見て覚えたんだよ」
「自分で?」
「おう」
「なんでなのだ?」
ハヤトは下地を馴染ませながら、当たり前のように答えた。
「カレン、朝弱いからなー学校行く前なんて半分寝てるんだよ。自分でメイクさせたらいつまで経っても終わらねーし」
「……まあね」
「だからオレが覚えた」
「……ほへー……ずいぶんと尽くす男なのだ……」
マホトルが関心している間も、ハヤトは何も気にする様子もなく、コンシーラーを手に取った。
「カレン、ちょっとクマあるな。かなり寝てるはずなのにな」
「……眠いから」
「食事量も睡眠量もすごいよな。付き合い長いけど、カレンの燃費のわるさに毎回驚かされるよ」
ハヤトが何か言っているが眠気のせいで、全然頭に入らない。
あたしは目を閉じたまま、大きな欠伸が出そうになる。
「ほらカレン、もうちょい我慢」
「……ん」
ハヤトの手だけが、慣れた様子で動き続ける。
正直、もうメイクなんてどうでもよかった。
配信もどうでもいい。
今のあたしが一番欲しいものは――。
「……ベッド……」
「配信終わるまで耐えるのだ!」




