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毒舌ダウナー少女の鋼魔法  作者: たなお
魔法使い系配信者
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業界で干されたYouTuberマホトル

「か、かかか彼氏ぃ! 早くこの女を止めるのだ! マホトル、殺されちゃうのだあああああっ!」


 胸ぐらをつかまれ、宙に浮かされたマホトルが涙目でハヤトへ助けを求める。

 手足までぷるぷる震えていた。


 そんなマホトルを見て、ハヤトは困ったように頬をかいた。


「いやぁ……怒ったカレンをなだめるのはちょっと……オレには無理っすねぇ……」


「こうなったら訴えてやるのだ! 暴行事件として動画にしてやるのだ!」


「……は?」


「再生数を稼いで! 同情のスーパーチャットをたくさん貰ってマホトルは大金持ちになるのだー!」


「…………」


 こいつ……反省する気ないのか?


「ひっ」


 あたしが無言で睨むと、マホトルの顔から一瞬で血の気が引いた。


「……あのさ」


「な、なんなのだ……?」


「人を不快にさせたとき、最初に言うことあるんじゃない?」


「…………ひぃ!」


「分かる?」


「ご、ごごごごめんなさいなのだあああああっ!」


 急に素直になったマホトルはあたしの腕を必死にほどいて地面へ着地すると――


 ズザッ!


 その場で勢いよく両膝をついた。


「謝るのだ! 心から謝罪するのだ! だから命だけは取らないでほしいのだ!」


「……大袈裟じゃない? 命までは取らないけど」


「信用できない目をしてるのだ! 本当に申し訳ありませんでしたなのだああああっ!」


 額を地面へこすりつける。


 見事な土下座だった。


「…………」


 そこまでされると、こっちも怒る気が失せる。


「……もういいよ」


「ほ、本当なのだ!?」


「その苗字で呼ばなければ」


「分かったのだ! 二度と言わないのだ!」


「……はあ……まったく……」


 マホトルが勢いよく顔を上げると、足腰を震えさせながら、あたしを指差した。


「さっきのおまえ、ヤクザでも裸足で逃げ出すような目をしてたのだ! 怖すぎるのだ!」


「……失礼じゃない?」


「おまえ何者なのだ!? まさか反社会的勢力なのだ!?」


「……はあ? あたし、普通の中学生なんだけど」


「嘘つくななのだあああああああっ!」


「うるさい」


「ひぃっ!」


 またマホトルが縮こまった。


 本当に騒がしい。


 今日は朝から学校でも騒がれ、愛那と長時間戦い、ラーメンを腹八分目食べて―――そろそろ眠くなってきた。

 疲労が出てきたようだ。

 

 あたしは小さく欠伸をする。


「……ふあ……もう帰ってくんない? シャワー浴びて寝たい……」


 あたしはマホトルに背を向けると「待つのだ!」と呼び止められて、腕をつかまれた。


「待ってほしいのだああああああっ!」


「……なに? 眠いんだけど?」


 あたしは眠くて重い目をなんとか開けながら振り返った。


 マホトルが必死な顔で叫ぶ。


「きょ、今日! まだ動画を一本も投稿してないのだ! 配信もしてないのだ!」


「……ふーん。んで要件はなに?」


「マホトルchは今、猛烈に伸びている途中なのだ! 登録者9万人を超えて! 今まさに10万人が見えてきた大事な時期なのだ! 銀の盾! マホトルchはあと少しで銀の盾が手に入るのだ! とっても名誉なのだ!」


「……だからなに? あたしに関係なくない?」


「だから毎日何かしら投稿したいのだ! インフルエンサーとして毎日投稿は大事なのだ!」


「……頑張れば? あたしは寝る」


「冷たいのだ!」


 強い眠気に襲われ、一刻も早く寝たいあたしはマホトルの腕を振りほどこうとするが、凄い力でしがみついているせいで剥がれない。


「そこでお願いなのだ! 巷で話題のカレンさんに、今日の配信へ出演してほしいのだあああああっ!」


「……やだ」


「即答!?」


「眠いし」


「お願いなのだあああああああっ!」


 マホトルがその場で泣き崩れる。


「今日何も上げなかったら、せっかく伸びてるチャンネルの勢いが落ちちゃうのだ! それに毎日投稿しないと事務所とマネージャーに怒られちゃうのだあああ!」


「……別にあたしに頼らなくてもよくない。自分で動画撮れば?」


「ネタがないのだ!」


「……考えればいいじゃん」


「思いつかないのだ!」


 はあ……なんで配信者は、どいつもこいつも面倒な性格ばかりしているのだろうか……


 マホトルは右腕でがっつりあたしの腕にしがみつくと、びしっと左手で指差した。


「こんなときこそ、配信者に伝わる伝説の奥義――」


「……?」


「《コラボ配信》なのだ! 他人の力でネタ切れを誤魔化すのだああああああっ!」


「堂々と言うことじゃないでしょ」


「誤魔化すって認めちゃったよ、この女……」


 蚊帳の外だったハヤトまで酷く呆れていた。


「……じゃあ、他の配信者に頼めば?」


「…………」


 あたしの問いにマホトルが固まると、頬を膨らませて両手の人差し指を合わせ始めた。


「……も、もう頼んだのだ」


「ならその人とやればいいじゃん」


「断られたのだ」


「……じゃあ別の人」


「その人にも断られたのだ。というか……その……どうもマホトルは……業界から干されてるっぽいのだ……」


 マホトルは頼れる配信者がおらず本気で困り、第三者のあたしを頼ったのか。


 けど、マホトルの事情とあたしの事情は別だ。

 あたしには関係ない。

 

 マホトルの腕を振りほどくと、玄関の扉に手をかけた。


「……へー……大変だね。あたしは寝るから」


「おまえ冷たすぎるのだ! 聞いて欲しいのだ! 最近なぜか『マホトルはウザいからコラボNG』という根も葉もないデマが、配信者界隈で共有され始めているのだ! そのせいでマホトルは干されたのだ」


「…………」


「酷いと思わないのだ!?」


 あたしは睡魔に負けて無言でいると、ハヤトは頬をかく。


「まあ……おまえが干された原因は会って十分くらいのオレでも、なんとなく分かるっすね……」


「なんでなのだああああああっ!」


「それが分かってないところじゃないっすか?」


「そんなああああああっ!」


 マホトルは大げさに地面へ崩れ落ちた。


「わたしはただ、みんなと仲良く動画を撮りたいだけなのだ……」


「再生数目当てって言ってたじゃん」


「仲良く再生数を稼ぎたいのだ……」


「……はあ……だからってあたしを巻き込まなくてよくない?」


「うわああああああああん!」


 とうとうマホトルが本格的に泣き始めた。


「誰もコラボしてくれないのだー! ネタもないのだー! 動画も作れなくてノルマ未到達で事務所にパワハラ鬼詰めされちゃうのだー! このままじゃ10万人いけないのだあああああっ! 銀の盾! ギンギラギンの盾欲しいのだあああああ!」


 家の前でわんわん泣かないで欲しい……


 うるさい……うるさいけど――。


「き、気の毒だな……」


 ハヤトが少し同情したような目を向ける。


「……はあ……」


 あたしは地面で泣きわめいているマホトルを見る。


「うわああああん! コラボしてほしいのだあああああっ!」


「…………」


 面倒くさい。


 本当に面倒くさい。


 だけど――。


「……シャワー浴びてからね」


「…………へ?」


 マホトルの泣き声が止まった。


「すんでしょ、配信? あたし素人だから何もわかんないからね」


「カ、カレン!?」


 ハヤトが驚く。


 マホトルはゆっくり顔を上げた。


「い、今……なんて……?」


 あたしは眠気をこらえながら、もう一度聞く。


「……だから配信で、何すんの?」


「…………!」


 マホトルの目が一気に輝いた。

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