ビッグバンマドンナ
『カレン様! あなたに挑戦状ですわーっ!』
「……はあ?」
スクリーンの向こうで、白黒の仮面をつけた女が高らかに宣言した。
派手なドレスに、やたらと大きな身振り。
そして何より――デカい。
画面越しだから正確には分からないけど、おそらく身長は180センチくらいある。
154センチのあたしと並べば、頭一つ半近く違いそうだ。
『なぜ、わたくしから挑戦を申し込まれたのか! もちろん、お分かりでございますわねッ!?』
デカい女――ビッグバンマドンナは、答えを知っていて当然とでも言いたげに、画面の向こうからあたしを指さした。
あたしは腕を組み、首をかしげる。
「……いや。あんたのこと、今日初めて知ったんだけど」
『んまああああああああああッ!?』
ビッグバンマドンナは両手で頬を押さえ、画面いっぱいに顔を近づけた。
『わたくしを知らない!? なんという無知! 無知無知のムッチムチでございますわーっ!』
何を言っているのか、よく分からない。
ビッグバンマドンナは仮面越しでも分かるくらい大げさに目を見開き、よろよろと後ずさった。
それに合わせて、体育館にいた仮面集団が一斉に騒ぎ始める。
「無礼者ー!」
「ビッグバンマドンナ様を知らぬとは!」
「この世に生きる資格なしー!」
どいつもこいつも、テンションが高すぎる。
あたしは力なく肩を落とした。
『無知なあなたのために、特別に教えて差し上げますわ!』
ビッグバンマドンナが、再び画面の向こうから指を突きつけてくる。
『あなた、これまで様々な大会で結果を残しているそうでございますわね!』
「……そうだっけ?」
『令和21年度、福岡県代表決定戦――ベスト4!』
画面の横に、大会名と成績が派手な効果音付きで表示された。
『世界大会出場権を懸けたバトルロイヤル――第3位!』
さらに別の大会名が、爆発するような演出とともに映し出される。
『そして、地方大会では幾度となく優勝! ネット上では、無名の強豪として密かに注目を集めているそうではありませんのーっ!』
「……無名なのか有名なのか、どっち?」
『細かいことはどうでもよろしくてよ!』
何もかもダルい女だ。
あたしは隣にいるハヤトを見上げた。
「……あたし、そんなに注目されてんの?」
「まあ、大きな大会は配信もテレビ中継もされるからな」
ハヤトはスマホを操作しながら答えた。
「試合の切り抜き動画も結構上がってるぞ。『鋼魔法使いのダウナー系の女子中学生』って」
「……知らなかった」
「再生数も結構回ってるな。この切り抜きは……すげー! 今は150万回も再生されてるぜ!」
「そんなに?」
大会には出るけど、自分の試合映像なんて見返したことがない。
ネットの評判なんて、興味がないのだ。
『とにかく!』
ビッグバンマドンナが両腕を大きく広げる。
『その程度の実力で注目を集めるなど、百年早くてよ!』
「……別に、注目されたくないんだけど」
『わたくし、ビッグバンマドンナが! 格の違いというものを、愚かなあなたに教えて差し上げますわーっ!』
「話聞いてる?」
『というわけで! わたくしからの挑戦状、確かに受け取っていただきますわよーっ!』
「いや、いらな――」
バリイイイイインッ!
突然、体育館の窓ガラスが派手な音を立てて砕け散った。
「うわあああっ!?」
ハヤトが頭を抱え、その場にしゃがみ込む。
「な、なんすか!? 襲撃!?」
割れた窓から、小型のドローンが体育館へ飛び込んできた。
機体の下には、白い封筒がぶら下げられている。
ドローンはガラスの破片をまき散らしながら、あたしの頭上で静止した。
「……普通に入口から入ってくればいいのに」
『演出に妥協は許されませんわ!』
「学校の窓、割れてるんだけど」
『必要な犠牲でございますわ!』
「……こいつ、人の話し聞かないタイプじゃん」
ドローンから封筒が切り離される。
ひらひらと落ちてきたそれを、あたしは片手で受け取った。
表面には、金色の文字で大きく『挑戦状』と書かれている。
開けたくない。
ものすごく開けたくない。
「カレン、読んでみようぜ!」
「……ハヤト、開けて」
「いいぜ。貸してくれ、カレン」
あたしはハヤトに封筒を渡すと、封を切って、中に入っていた一枚の紙を広げる。
そこには、やたらと豪華な装飾文字で、こう書かれていた。
【配信者特別大会――《マジッカーバトルトーナメント》へ、貴方様をご招待いたします】
「……配信者特別大会?」
あたしが読み上げると、スクリーンの向こうでビッグバンマドンナが高笑いを始めた。
『おーっほっほっほっほ! その大会で、わたくしと勝負していただきますわ!』
「……ダルい……」
『ダルいなんて、失礼なお方でございますわね!』




