変な集団
「それでさ。そろそろ、あんたらの目的を教えてくんない?」
あたしは体育館の隅に集まった仮面集団を見回した。
「放課後、あたしは用事があったんだけど。あんたらが突然学校に押しかけてきて、勝負しろって騒ぎ始めて……ダルいんだけど?」
「貴様ぁ! とぼけるつもりか!」
親衛隊の一人が、びしりとこちらを指さす。
「……はあ。ダルい」
まともに相手をするだけ無駄そうだ。
あたしは右腕に装着していた腕輪を外した。
正式名称は、魔法再現装置――《マジックギア》。
かつて空想の中にしか存在しなかった魔法を、科学の力で再現するために開発された機械だ。
これを身につければ、誰でも魔法を使うことができる。
そして、マジックギアによって生み出された魔法で、互いに100あるHPを削り合う競技。
それが《マジッカー》だ。
先に相手のHPを0にした者が勝者となる。
もっとも――。
今、体育館の床に転がっている10人は、あたしのHPを1も削れなかったけど。
「よりにもよって、カレンに喧嘩を売るとはな」
隣に立っていたハヤトが、両手の指をぽきぽきと鳴らす。
「お前ら、覚悟はできてるんだろうな?」
「……なんでハヤトが威張ってんの?」
「大好きな幼なじみを守るのは、オレの役目だからな!」
「……頼んでない」
「遠慮すんなって! お礼はキスでいいぜ!」
ハヤトは決め顔を浮かべ、親指を立てた。
こいつは、いつもこんな調子だ。
人前で堂々と「好きだ」の「愛してる」だの口にして、恥ずかしくないのだろうか。
おかげで、あたしもすっかり言われ慣れてしまった。
そもそも、10人をまとめて相手にしても傷一つ負わなかったあたしを、誰から守るつもりなのだろうか。
「しらばっくれるな、このボケー!」
「インチキ女は引っ込めー!」
「我らが"推し"の仇ー!」
仮面集団が、そろって拳を振り上げる。
息だけはぴったりだった。
ハヤトが首をかしげ、あたしの顔を見る。
「推し? カレン……誰かに恨みでも買ったのか?」
「……知らない」
「カレンは知らないって言ってるぞ。お前ら、さっさと帰れ」
「クソ男め! 少しはそこの女の言葉を疑え!」
「あんた、アホっすねー」
ハヤトは呆れたように肩をすくめる。
「カレンが白と言ったら白なんすよ。たとえカレンが『カラスは白い』と言ったとしても、オレが全部ペンキで白く塗りつぶす。それが愛ってもんっす」
「……はあ。またバカなこと言ってる」
「どうだ、カレン。惚れ直したか?」
「……惚れてないから」
「またまた照れちゃってー!」
本気で言っているのだから質が悪い。
「ええい、こうなったら撤退だ!」
親衛隊の一人が拳を突き上げた。
「全員、退けー!」
「おおー!」
仮面集団が一斉に体育館の出口へ向かおうとする。
しかし、そのとき―――。
「待て! あのお方から通信が入ったぞ!」
「「「な、な、なんだってぇぇぇぇぇっ!?」」」
親衛隊員たちが、ひっくり返りそうな勢いで振り返った。
「通信を映すぞ! 急げ!」
「カーテンを閉めろ!」
「プロジェクターを用意しろ!」
さっきまで逃げようとしていたはずの仮面集団が、突然きびきびと動き始める。
体育館のカーテンが次々と閉じられ、室内が薄暗くなった。
どこから持ってきたのか、親衛隊員たちは小型プロジェクターとスクリーンを手際よく設置していく。
……準備が良すぎないか?
「あのお方からの通信である!」
親衛隊員の一人が、床にひざまずきながら叫んだ。
「皆の者、心して聞けー!」
プロジェクターの光がスクリーンに照射される。
白かった画面が一瞬だけ乱れ、やがて一人の少女の姿を映し出した。
『無様でございますわねぇ――ッ! 愚民マドンナーの皆様!』
体育館に、よく通る高笑い交じりの声が響き渡る。
次の瞬間、親衛隊員たちは一斉に両手を掲げた。
「「「ビッグバンマドンナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」
床が揺れそうなほどの大歓声だった。
あたしはスクリーンに映る少女を眺め、それから隣のハヤトに視線を向ける。
「ハヤト……誰、あいつ?」
「……えーっと」
ハヤトは難しい顔で首をひねった。
「すまん。オレ、カレン以外の女を覚えるの苦手なんだよ。ちょっと待ってくれ。今、調べる」
「……はあ」
意味不明な状況が続き、あたしはため息を吐きながら、自分の髪を弄る。
黒髪に金のインナー入れたけど……似合ってるかな?
あたしは、ぼんやりと次の美容室予定を考えていると、ハヤトがスクリーンに映った女を調べ終わったらしく、スマホの画面を見せてきた。
「ビッグバンマドンナ……Vtuberの配信者だな」
「配信者?」
「チャンネル登録者数は10万人超え。現役のマジッカー選手でもあるみたいだな」
ハヤトは画面に表示された情報と、スクリーンに映る少女を交互に見比べる。
「結構、有名人らしいぞ」
「……へー……そうなんだ。どうでもいい」
「だろうな。カレン、他人に興味ないもんな」
『そこ! わたくしを無視して仲良くお喋りするんじゃありませんわーっ!』
スクリーンの向こうから怒鳴り声が飛んでくる。
あたしは面倒くさくなって、また大きなため息をついた。
「……で、そのビッグなんとかが、あたしに何の用?」




