不審者、通報される
ビーッ!
HP切れを告げる電子音が鳴り響いた。
【ビッグアイ HP0】
「……ふう」
あたしは小さく息を吐き、バスターソードを魔力へ戻す。
終わった。
そう思った次の瞬間――。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」
マドンナ親衛隊の大歓声が、住宅街に響き渡った。
「すごすぎるぞ!」
「ネーム持ち二人を倒した!」
「あの二人、実力だけなら全国大会クラスだぞ!」
朝っぱらから人の家の庭で何を盛り上がっているのだろう。
ここ、競技場じゃないんだけど。
『カレンさん……』
空中に浮かぶビッグバンマドンナのホログラムが、わなわなと震えていた。
『すごい……素晴らしいですわ……!』
「……もういいでしょ?」
あたしは腰に手を当てる。
「二人とも倒したんだから、帰ってくんない?」
『んまああああああああっ! なんという冷たいお言葉!』
マドンナが胸を押さえ、大げさによろめく。
『ですが! その冷徹な態度すら愛おしい! 勝利しても驕らず! わたくしの賛辞にすら興味を示さない!』
「……単純に帰ってほしいだけなんだけど」
『その態度ですわ!』
びしりと指を突きつけられる。
『あなたは人を狂わせる! カレンさん――あなたこそ、魔性の女ですわあああああっ!』
「……めんどくさ」
さすがに付き合っていられない。
大きく欠伸をして、両腕を上へ伸ばす。
早起きして自主練までしたせいか、また眠くなってきた。
『まったく……カレンさんは、ご自身の立場を理解していらっしゃらないようですわね』
「……なにが?」
『以前、あなたが出場した大会は、ネットを通じて広く配信されておりますのよ!』
「……それが?」
『あなたの戦いを見て、心を奪われた者は大勢いるということですわ!』
マドンナは両腕を広げる。
『強さ! 容姿! そして、その他人に媚びない態度! あなたに魅了された人間は、わたくしたち以外にも、たーっくさんいらっしゃいますの!』
「……どうでもいい」
『どうでもよくありませんわ! もっとご自身が人気者であることを自覚なさいませ!』
「興味ないし」
『だからこそ魔性なのですわあああああっ!』
「……はあ」
あたしは腕を組んだ。
そのときだった――。
「…………」
遠くから、何か聞こえた。
まだ小さいが、徐々にこちらへ近づいてきている。
「……あ」
なるほど。
そりゃあ、来るよね。
「ビッグバンマドンナ」
『なんですの?』
「……親切心で言ったげる」
『おや? カレンさんからわたくしへの親切!? ぜひ! ぜひお聞かせくださいませ!』
「早く帰った方がいいよ」
『まあ! 照れていらっしゃるの? わたくしはもう少し、カレンさんと愛を育み――』
ウ――――ン。
ウ――――ン。
『…………』
マドンナの声が止まった。
サイレンの音が、どんどん近づいてくる。
ハヤトが道路の方を見て、苦笑した。
「あー……そりゃ来るよな」
「……ん」
当然だ。
休日の早朝から、住宅街に何十人もの仮面集団が押しかけた。
ラッパを鳴らし、大声で騒ぎ――そして、庭で派手に魔法まで撃ち合った。
通報されない方がおかしい。
やがて家の前の道路に、赤色灯を回したパトカーが姿を現した。
「「「…………」」」
さっきまで騒いでいた親衛隊員たちが、一斉に黙り込む。
『…………』
「……だから言ったじゃん」
あたしは呆れながら、もう一度ため息をついた。




