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毒舌ダウナー少女の鋼魔法  作者: たなお
早朝のタッグバトル
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鋼鉄の悪魔《アイアンマイン》

 ビッグアイは《ノイズ》の影響から立ち直ると、すぐさま両腕をこちらへ向けた。


「ひひっ……! 《穴まみれになれ――ニードルアーム!》」


 腕を覆うように、鋭い棘が次々と生えていく。


 だけど――あたしは振り返らない。


 構えもせず、ただ口を動かす。


「……ハヤト」


「任せろ!」


 毎日耳にする男の元気な返事。

 

 ――それだけで十分だった。


「《超音速 ソニックブーム!》」


 ハヤトが大きく腕を振り抜く。


 ブンッ!


 空気が震え、目に見えない衝撃波が一直線に走る。


「ぐぅっ!?」


 ビッグアイの身体が大きく仰け反る。


 ホログラムの文字が更新された。


【ビッグアイ HP75】


「カレンの邪魔はさせねーぞ!」


 ハヤトの使う音属性(おとぞくせい)の魔法はサポート特化だ。


 タッグを組む時は、幾度となくハヤトのサポートで危機を乗り越えてきた。


 あたしはバスターソードを両手で握り直す。


「……んっ!」


 一歩踏み込む。


 腰を軸に身体を回転させ、その勢いのまま大剣を横薙ぎに振るった。


 鋼鉄の刃が、ビッグアイとビッグタンをまとめて捉える。


「ふぎぃっ!」


「ギリィッ!」


 二人の身体が左右へ弾き飛ばされた。


 ホログラムの文字が更新された。


【ビッグアイ HP55】

【ビッグタン HP35】


「す、すごいぞ!」


「ネーム持ち二人を押している!」


「やれー!」


「ビッグタンをぶっ飛ばせー!」


「ビッグアイも痛めつけろー!」


 観戦していたマドンナ親衛隊が、一斉に盛り上がる。


「……あんたら、仲間じゃないの?」


「「強い者を応援する! それが我々マドンナ親衛隊!」」


「薄情な連中……」


 そんな騒ぎをよそに、空中のホログラムだけは、いやに静かだった。


『ふ……ふふ……』


 ビッグバンマドンナが、顔を伏せたまま笑っている。


『素晴らしい……』


「……?」


『実に、素晴らしいですわ……!』


 ゆっくりと顔を上げる。


 仮面越しでも分かるほど、その表情は興奮に満ちていた。


『沸き上がりますの……! 胸の奥から! 心の底から!』


 両腕を大きく広げる。


『カレンさん! あなたを欲しいという、この欲望がああああああああっ!』


「……うっさい」


『たまりません! 今ここで確信しました! あなたは人を狂わせる!! 欲しくて欲しくてたまりませんわ!!! 』


 放っておこう。


 あたしはバスターソードを握り直し、ビッグタンへ駆ける。


「ギリギィ……!」


 ビッグタンがこちらへ腕を向けた。


「《鋭き岩 ロックカッター!》」


 再び、円盤状の岩が高速回転しながら飛んでくる。


「……同じのは、もういい」


 一度目は砕いて失敗した。


 だったら、二度目は避ける。


 頭を低くしてしゃがみ込む。


 ロックカッターが、髪のすぐ上を通り過ぎた。


「ギリッ!?」


 そのまま一気に間合いへ入る。


「……はっ!」


 バスターソードを下から振り上げた。


 ガキィンッ!


 鋼鉄の刃がビッグタンの顎を捉え、身体を大きく浮かせる。


「ギリィィッ……!」


 体勢を崩した。


 今なら入る――バスターソードを魔力へ戻し、両手を前へ突き出す。


「……終わらせる」


 手のひらの前に銀色の魔法陣が展開される。


「《ぶっ飛べ、鋼の弾――アイアンカノン》」


 ドンッ!


 撃ち出された鋼鉄の砲弾が、無防備になったビッグタンの腹部へ直撃した。


「ギリィィィィッ!」


 ビーッ!


 HP切れを告げる電子音が鳴り響く。


【ビッグタン HP0】


 ビッグタンは白目をむき、そのまま仰向けに倒れた。


「「「うおおおおおおおおおっ!」」」


 マドンナ親衛隊達が盛り上がる。


 ……うっさい連中だ。


 ここ、あたしの家なの忘れてない? 近所迷惑なんだけど。


 だけど、そんな愚痴を言っている暇はない。


「ひひ……ひひひひっ!」


 残ったビッグアイが、さらに大きく目を見開いた。


「《棘よ飛べ! ニードルアロー!》」


 両腕から大量の魔力の棘が放たれる。


 数が多い。


 まともに食らえば、残りHPを一気に持っていかれる。


 だけど――。


「……遅い」


 横へ大きく跳ぶ。


 何十本もの棘が、さっきまであたしが立っていた場所へ突き刺さる。


 全部、外れた。


「…………ふーん。なるほどね」


 ビッグアイの動きにも、だいぶ目が慣れてきた。


「……本当は、住宅街でこれ使いたくなかったんだけど」


 庭を見回す。


 フィールドがあるとはいえ、気分のいい魔法ではない。


「でも……早く終わらせた方が静かになるか」


「カレン!」


 ハヤトが、あたしの意図を察したように声を上げる。


「あれ使うんだな!」


「……ん。だから踏まないでよ」


「任せろ!」


 ハヤトはニッと笑うと、右手を持ち上げる。


「《鋼鉄(こうてつ)の悪魔設置(あくませっち) アイアンマイン》」


 あたしがパチンと指を鳴らすと足元から銀色の波紋が広がる。


 地面を這うように庭全体へ広がり、やがて消えた。


「……なんだ?」


 親衛隊員の一人が首をかしげる。


「何も起きていないぞ?」


「馬鹿! 知らないのか!」


 隣の男が得意げに説明を始めた。


「《アイアンマイン》は、地面へ魔力地雷を設置する鋼魔法だ!」


「地雷!? じゃあ、踏んだら……」


「ドカンだ!」


 あたしと対峙するビッグアイの笑みが、わずかに消えた。


 足元へ視線を落とす。


 当然、地雷なんて見えない。


 どこに設置されているのか知っているのは、あたしだけ。


 それが《アイアンマイン》の強みだ。


 威力だけじゃない。


 どこを踏めば爆発するのか分からない。


 その恐怖が、相手の足を止める。


「……動けないでしょ?」


「ひ……ひひ……!」


 ビッグアイが一歩踏み出そうとして――やめた。


 その一瞬で十分だ。


「ハヤト」


「おう!」


 あたしとハヤトは同時に構えた。


「《ぶっ飛べ、鋼の弾 アイアンカノン》」


「《超音速! ソニックブーム!》」


 鋼鉄の砲弾と衝撃波。


 二つの魔法が、ほぼ同時にビッグアイへ直撃した。


 ドゴォンッ!


「ぐいいいいいいいっ!」


【ビッグアイ HP15】


 ビッグアイは虫の息だ。


 さっきまで浮かべていた不気味な笑みは、完全に消えていた。


 大きく見開かれた瞳に荒い呼吸。


 余裕を失った人間の顔だ。


「……あと少し」


 あたしはバスターソードを生成する。


 鋼鉄の大剣を構え、ビッグアイへ近づいていく。


「ひひ……!」


 追い詰められたビッグアイが、両腕を前へ突き出した。


「《穴まみれになれ――ニードルアーム!》」


 ボコボコッ!


 再び、両腕に無数の棘が生える。


 狙いは、また腹部のようだ。


 同じ攻撃だ。


 普通なら、バスターソードを盾にして防ぐ。


 だけど――。


「…………」


 あたしは、あえて防御しなかった。


 剣を下げて、足も止めた。


「ひ……?」


 ビッグアイの表情が変わった。


 隙だと思ったのだろう。


「ひひひひひひっ!」


 勢いよく地面を蹴る。


 棘の生えた拳を構え、一直線にこちらへ向かってくる。


 あと5メートル……3メートル……1メートル。


 ――来た。


 カチッ。


 ビッグアイの足元から、小さな音が鳴った。


「ひ?」


 笑みが消える。


「……かかった」


 あたしは指を鳴らした。


「《トラップ発動――アイアンマイン》」


 パチン。


 あたしが指を鳴らした次の瞬間――。


 ドゴオオオオオオンッ!


 ビッグアイの足元から、銀色の爆炎が噴き上がった。

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