VSビッグアイ&ビッグタン
ドローンが上空に、青白いホログラムが浮かび上がらせる。
【毒毒カレン HP100】
【紫ハヤト HP100】
【ビッグアイ HP100】
【ビッグタン HP100】
『それでは両者――健闘を祈りますわ!』
ビッグバンマドンナが勢いよく片腕を振り上げる。
『試合開始ですわあああああああっ!』
ビ――――ッ!
ブザーが鳴った。
その瞬間――。
「ギリギィ……! 《鋭き岩――ロックカッター!》」
先に動いたのはビッグタンだった。
右腕を振るうと、その正面に茶色い魔法陣が展開される。
そこから飛び出したのは、円盤状に削られた岩。
縁が刃物のように鋭く尖っている。
「……岩属性か」
高速回転する《ロックカッター》が、一直線にあたしへ飛んでくる。
「《出でよ、大剣――バスターソード》」
右手へ魔力を集中。
銀色の粒子が集まり、鋼鉄の大剣を形作った。
「……ふっ!」
両手で柄を握り、飛んできた岩へ叩きつける。
バギィンッ!
ロックカッターが真っ二つに砕けた。
「……っ!」
だけど――砕けただけだった。
細かく割れた岩の破片が、その勢いのまま四方へ飛び散る。
「……ちっ!」
顔を腕でかばう。
無数の破片が身体へ当たり、HPが削られる。
上空のホログラムの文字が更新された。
【毒毒カレン HP90】
「なるほど……」
壊されるところまで込みの魔法か。
「カレン! 大丈夫か!」
後ろからハヤトの声が飛んでくる。
「心配しなくていいから! 自分の方見て!」
「了解!」
10程度なら問題ない。
あたしはバスターソードを握り直し、一気に前へ出る。
狙いは――ビッグアイ。
「ひひっ!」
あたしが距離を詰めると、ビッグアイの大きな瞳がさらに見開かれた。
「来るぞ……来るぞ! 《穴まみれになれ――ニードルアーム!》」
両腕を包むように、紫色の魔力がまとわりつく。
直後――。
ボコッ!
ボコボコボコッ!
腕の表面から、何十本もの巨大な棘が生えた。
「……棘属性か」
「ひひひひ!」
ビッグアイが嬉しそうに両腕を振り回す。
左から来た拳。
「……遅い!」
バスターソードの腹で押しのける。
ガキィン!
軌道を逸らした。
けれど――。
「ひひっ!」
右。
「――っ!」
もう一方の《ニードルアーム》が、がら空きになった腹部へ迫る。
避けられない。
「……ぐっ!」
腹にズンッと重い衝撃が走った。
【毒毒カレン HP70】
――強い!
昨日相手にした親衛隊とは、明らかに違う。
一人一人の攻撃力も高い。
それ以上に2人の連携が厄介だ。
「ギリィ……」
背後から声。
「《生えろ――ロックグロウ!》」
「……!」
足元の地面が震えた。
次の瞬間、巨大な岩が地面から突き出した。
身体を横へ投げ出すようにして回避する。
「ひひっ!」
そこへ、ビッグアイが待ち構えていた。
「しまっ――」
避けた先を狙って、《ニードルアーム》が振り抜かれる。
「ぐ……っ!」
防ぎきれない。
身体が横へ弾かれる。
【毒毒カレン HP50】
開始から、ほとんど時間は経っていない。
それなのに、もう半分。
『おーっほっほっほっほ!』
上空からマドンナの楽しそうな声が響く。
『カレンさん、大ピンチですわねえええええっ!』
「…………」
『さあ! どうしますの!? この状況を、どうやってひっくり返してくださるんですのーっ!?』
「……くだんない挑発」
この程度の煽りに付き合う必要はない。
あたしはバスターソードの切っ先を下へ向け――庭の地面へ突き刺した。
『おや?』
武器を手放したように見えたのだろう。
ビッグアイが笑う。
「きひぃ、諦めた?」
「……あたしが諦める? バカじゃん」
あたしは後ろを見ずに、名前だけ呼んだ。
「ハヤト」
「おう!」
返事は一瞬だった。
何をするのか、説明する必要もない。
「カレン、耳塞げ!」
「……ん」
両手で耳を塞ぐ。
その直後――ハヤトの口元に、小さな魔法陣が展開される。
「《騒音妨害 ノイズ!》」
ギィィィィィィィィィンッ!!
空気そのものが震えた。
耳を塞いでいても分かるほどの、不快な振動。
「ぎぃ……っ!」
「うぐ……!」
まともに音を受けたビッグアイとビッグタンが、同時に顔を歪める。
膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちた。
上空のホログラムの文字が更新された。
【ビッグアイ HP95】
【ビッグタン HP95】
ダメージ自体は小さい。
だけど、《ノイズ》の本当の強さはそこじゃない。
聞いた相手の身体へ一時的な脱力を引き起こし、動きを鈍らせる。
「今だ、カレン!」
「……分かってる」
耳から手を離す。
地面へ突き刺していたバスターソードの柄を握る。
狙うのは――ビッグタンだ。
そして、さらに狙う場所は一つ。
右腕のマジックギア!
「……いくよ」
地面を蹴った、その瞬間――頭の中に、シンの声が蘇る。
『踏み込みが浅い』
もっと深く。
『腰が入ってねえ。そんな半端な一撃で、俺を倒せると思ったか?』
腕だけで振らない。
足と腰と肩、全部をつなげるんだ。
『力を入れすぎだ。そんな握り方じゃ、剣に振り回されるぞ』
柄を握り締めすぎず、肩の力を抜き、身体全体で振った。
「……っ!」
踏み込んだ。
昨日までのあたしとは違う。
身体が、驚くほど滑らかに動く。
「――はあっ!」
バスターソードを振り下ろした。
「ギリィッ!?」
ビッグタンが慌てて腕を上げる。
けれど、もう遅い。
鋼鉄の刃が、右腕のマジックギアへ直撃した。
バギィィィィンッ!
大きな衝撃音。
ビッグタンの身体が吹き飛ぶ。
【ビッグタン HP55】
『んまああああああああああっ!?』
マドンナの声が響いた。
『一撃で40ダメージ! クリティカルですわああああああっ!』
「……よし」
マジックギアは急所だ。直撃すれば大ダメージが入る。
「すごいぞ、カレン!」
ハヤトが自分のことのように嬉しそうに喜ぶ。
昨日、シンに何度やっても注意された動きを全部、意識できた。
手に残る感触が違う。
今の一撃は――良かった。
「……まだ終わってない」
あたしはバスターソードを構え直す。
上空のホログラムの文字を確認する。
【毒毒カレン HP50】
【紫ハヤト HP100】
【ビッグアイ HP95】
【ビッグタン HP55】
数字だけ見れば――まだ不利だ。
だけど――。
「……いける」
昨日までより、あたしは強くなっている。
それが分かっただけで少しだけ、楽しくなってきた。




