表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「私は大丈夫」しか言わない光の姫と、それを許さない水の守護者 ~生まれ変わっても、姫は自分を守らない~  作者: 水音乃碧
第3章 なかったはずの加護

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

第2話 選ばれたい

最初の一通は、ラグナの一件から八日後の夕方に届いた。


光の神殿、受付を兼ねた前庭の一室。若い神官が、差し出された封筒を受け取り、宛名を読み上げる。


「……『光の象徴、シルヴィーン殿下へ』」


差出人は、魔術機関の中堅魔術士だった。内容は簡潔で、丁寧だった。

自分の外套へ、歪みへの耐性を付与していただきたい。日時は殿下のご都合に合わせる。相応の謝礼を用意する。


神官は首を傾げた。神殿は、そんな業務をしていない。


「……何かの間違いでは」


そう言って封筒を脇へ置いた。


翌朝、三通が届いた。

昼までに七通。

夕刻には、机の上で束が崩れた。


束をまとめ直した神官は、もう宛名を読み上げなかった。


*  *  *


噂は、正確に始まった。

ラグナの歪みへ入った水と風の守護者が、帰還後、光の象徴から外套へ光の力を付与された。


水の守護者の外套には、光が既存の術路を乱すことなく馴染んだ。前例のない現象だった。

風の守護者の外套にも、光の加護が残っている。


ここまでは、事実だ。


三日目には、こうなっていた。

――光の象徴の加護を受ければ、歪みの中でも傷を負わない。


四日目には、こうなった。

――守護者の装備と、光が“融合”したらしい。二度と剥がれないそうだ。


五日目。

――あれは加護ではない。光の象徴にしか出来ない、特別な祝福だ。


そして、六日目。

――受けられるのは、選ばれた者だけらしい。


この一行が加わった瞬間、依頼は殺到した。


*  *  *


「……七十二件です」


サイラスが、書類の束を執務机へ置いた。音が、重い。


「本日の午前までで。まだ増えます」


シルヴィーンは、ペンを持ったまま顔を上げた。積まれた束を、ひととおり眺める。


「多いわね」

「多い、では済みません。……内訳を申し上げます。魔術機関から二十九件。神殿の各分神殿から十八件。王家から四件。個人名義のものが十件。それから――」


そこで、一度言葉を切った。


「他国の使者から、十一件」

「他国?」

「アポロニア、ヴェルディア、ルシタニア。それぞれの神殿と、王家からです」


シルヴィーンは、少しだけ首を傾げた。


「早いわね」

「感心なさっている場合ですか」


サイラスは、束の一番上の書状を抜き出す。


「すべてに、同じ一文が入っています。――『光の象徴ご本人による付与を希望』」

「無理よ」


即答だった。


「……無理、とは」


抜き出した書状が、手の中で行き場を失っている。


「水の守護者の外套と同じことは、できないわ」


シルヴィーンは、書状の束へ視線を落としたまま続ける。


「あれは、術路が拒まなかったから入っただけ。他の装備では閉じる。風の守護者のもので、試したの」

「……試された、のですか」

「ええ。閉じたわ」


あっさりと言い切って、シルヴィーンはペンを置いた。


「だから、同じものは約束できない。でも――」


シルヴィーンは顔を上げる。


「外側から重ねる防護付与でよければ、受けるわ」


サイラスは、しばらく言葉を探した。


「……それは、精霊の加護ではありません」

「ええ。外側へ防護を重ねるだけよ」

「高位神官でも施せます。効果も、手順も変わりません」

「そうね」

「ならば、お断りできます」

「なぜ?」


問い返す声には、本当に理由が分からないという響きしかなかった。


サイラスは、束へ手を置いた。


「七十二件です。まだ増えます」

「一件あたり、そう時間はかからないわ。一日十件なら、一週間程度で終わる」

「その一週間で、依頼は二百件になります」

「なら、増えた分もやるわ」

「一日十件で、二十日。その二十日、歪みは待ちません」


サイラスは額に手を当て、深く息を吐いた。


「シルヴィーン様」

「なに?」

「あなたは、なぜ人が加護を欲しがるのか、お分かりですか」


シルヴィーンは、当然のように答えた。


「歪みへ入るからでしょう」

「違います。彼らが欲しがっているのは、防護ではありません」


サイラスの声が、静かに落ちる。


「――あなたに、選ばれたいからです」


シルヴィーンの手が、止まった。

仮面の奥の青が、一度だけ瞬く。


「……選ばれたい?」


本気で、分かっていない顔だった。


*  *  *


その日の午後。魔術機関ハイランディア支部、応接室。


セヴァンが、束ねられた書状の写しを一枚ずつ捲っている。口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。


「これは、これは」


向かいの席で、レヴィンは書類へ目を落としたまま、動かない。


「機関だけで二十九件。うち十四件は、あなた宛です」

「……なぜだ」

「『水の守護者に取り次いでいただきたい』だそうですよ」


捲られかけた紙が、戻される。


「私は関係ない」

「関係、大ありでしょう」


セヴァンが、書状の束を軽く掲げる。


「発端は、あなたの外套です」


返事はない。

セヴァンは、書状を机へ置いた。


「ちなみに光の神殿は今週末、対応方針を決める会議を開くそうです。そして、加護を受けたあなたも、出席を求められています」

「……そうか」

「光の守護者も、出席されるとか」


レヴィンが、わずかに顔を上げた。


「あの方がこのような会議に出るところなど、見たことがありませんが」


セヴァンの目が、細くなる。


「面白くなりますよ」


レヴィンは、答えない。ただ、椅子の背へ掛けた外套へ、一度だけ視線を向けた。


深い青緑の奥で、白銀が静かに沈んでいる。


「光の守護者は、何をしに来る」

「さあ」


セヴァンは、書状を揃えた。


「私も、それが知りたいですねぇ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ