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第二章 空の色

少女は目を覚ました。


昨日とは違う場所だった。


けれど不思議と驚かなかった。


風が運ぶ草の香り。


朝露をまとった緑。


頬を撫でるやわらかな空気。


少しずつ、この世界に慣れ始めている自分がいた。


胸元を見る。


砂時計は、

ほんのり桜色に染まっていた。


どうして色が付いたのかはわからない。


けれど嫌ではなかった。


少女は立ち上がる。


その時。


遠くで羽音が聞こえた。


白い鳥だった。


朝日に照らされながら、

ふわりと空へ舞い上がる。


少女はその姿を目で追った。


そして。


初めて空を見上げた。


空は薄青だった。


透き通るほど淡く、

今にも消えてしまいそうな色。


まるで世界がまだ眠っているようだった。


少女は立ち尽くす。


空はどこまでも続いていた。


草原よりも。


風よりも。


ずっと遠くまで。


こんなに大きなものを見たことがあっただろうか。


胸の奥が少しざわめいた。


怖いわけではない。


けれど落ち着かない。


自分がとても小さな存在になった気がした。


少女はそのまま歩いた。


鳥を追いかけるように。


風を追いかけるように。


気付けば太陽は高く昇っていた。


空の色も変わっていた。


水色だった。


朝の薄青よりも明るく、

やさしく世界を包んでいる。


少女は草の上に腰を下ろした。


見上げれば、

雲がゆっくり流れていく。


急ぐこともなく。


迷うこともなく。


ただ流れていく。


それを見ていると、

なぜだか胸の奥が静かになった。


風が吹く。


草が揺れる。


遠くで鳥が鳴く。


少女はそっと手を伸ばした。


届かない空へ向かって。


細い指が光を受ける。


その時。


雲の隙間から、

一筋の光がこぼれた。


光は少女の指の間をすり抜ける。


金色の糸のようだった。


少女は目を細め、

指を閉じる。


けれど光は捕まらない。


もう一度指を開く。


光はまた、

やさしくその隙間を通り抜けていった。


綺麗だった。


ただ、それだけだった。


なのに。


胸の奥に小さな温かさが残る。


少女は空を見上げたまま呟いた。


「もしかしたら…私が知らない世界が、

まだあるのかもしれない」


夕方が近付く。


少女は小高い丘へ登った。


息を切らしながら振り返る。


その瞬間。


思わず立ち止まった。


空が青かった。


朝の薄青でもない。


昼の水色でもない。


深く澄んだ青。


どこまでも広がる色。


世界の果てまで続いているような色。


少女は知らなかった。


空にはこんなにも色があることを。


知らなかった。


世界がこんなにも広いことを。


知らなかった。


自分の知らない景色が、

まだ沢山あることを。


風が吹く。


髪が揺れる。


少女は胸に手を当てた。


その鼓動は昨日より少しだけ温かかった。


胸元で小さな音が鳴る。


からり。


砂時計を見る。


桜色だった砂は、

今度は淡い空色に染まっていた。


一粒。


また一粒。


静かに落ちていく。


少女はその意味を知らない。


けれど。


落ちていく砂を見ながら思った。


空は変わらない。


世界も変わらない。


それなのに。


昨日より少しだけ、

遠くを見てみたいと思った。

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