第9話 実績解除:通話機能
「ログイン後は、ちゃんとメッセージを送り合う」という中学生のような約束を改めて交わして、自分たちは再び仮想世界へと意識をダイブさせた。
まばたきをする間に視界は切り替わり、自分はログアウトした時と寸分違わぬ場所に立っていた。あの巨大な噴水の目の前だ。
今度こそすぐに見つかるだろうと期待を込め、まずは周囲をじっくりと見回してみる。ゆうちゃんが使っていそうな、いかにも初期装備といった風貌の、一人で立ち尽くしている男性アバターはいないだろうか。
「……やっぱり、いないよな」
視界に入るのは、相変わらずの喧騒だった。すでにパーティーを組んで「次はどのクエストに行く?」なんて楽しそうに雑談している冒険者たちや、行き交うNPCたちの活気にあふれている。誰もが連れと笑い合い、この世界を謳歌しているように見えた。そんな中で、自分のように一人で所在なげに誰かを待っているような男性の姿は、どこを探しても見当たらない。
仕方なく、自分は意識を集中させて空中にメニュー画面を呼び出した。約束通りこちらから連絡を入れようとメッセージの送信画面を表示させた、その時だった。
ポーン、と耳元で軽やかな通知音が鳴り響く。
『usiさんよりメッセージを受信しました』
【 開く / 閉じる 】
「おっ、来た」
自分は「開く」のアイコンを選択した。空中に浮かび上がったウィンドウに表示されたのは、予想通りゆうちゃんからのぶっきらぼうなメッセージだった。
『ゆう! どこにおるんだ? 噴水前おるけど、ぼっちの女アバおらんぞー』
「あー……やっぱり、そっちからも見えてないのか」
けれど、自分もこうして間違いなく噴水のすぐそばに陣取っている。この噴水は、広場の中心を占領するほどに巨大だ。勢いよく吹き出す水の音は周囲の声をかき消し、立ち上る細かな水しぶきが視界を遮っている。
これだけ大きいのだから、ちょうど真反対側の影に隠れてしまっていて、お互いに死角に入っているだけかもしれない。そう自分に言い聞かせると、自分は「返信」を選択し、空間に投影されたホログラムのキーボードを叩いた。
『ゆうこそどこなの? 自分もずっと噴水の前に立ってるんだけど。ここの噴水ってかなり大きいから、もしかしたら反対側にいるのかも。とりあえず、自分がぐるっと回ってそっちに行ってみる。ゆうちゃんはそこで待ってて』
入力を終え、送信ボタンをタップする。メッセージが光の粒子となって消えていくのを見届け、噴水の縁に沿って歩き出そうとして、ふと指が止まった。
「……てか、移動しながらいちいちこれ打つの、結構面倒だな」
せっかく全身の感覚がリンクしているフルダイブゲーなのだ。わざわざ足を止めて空中のパネルをポチポチと叩く動作は、想像以上に手間がかかる。もっと直感的で便利な方法、例えば通話機能のようなものはないのだろうか。
そんな、ちょっとしたワガママを頭の片隅で考えながら、噴水の反対側へ向かうために最初の一歩を踏み出した、その時だった。
♪♪〜!
突然、聞き慣れない華やかなファンファーレのような音が頭の中に鳴り響いた。
「っ、びっくりした。な、なに?」
あまりに唐突な音に肩が跳ね、思わず足を止めて周囲を警戒する。何かモンスターの襲来か、あるいはトラップか。慌ててメニューウィンドウを呼び出して確認すると、そこにはおしらせという文字が、祝福するように淡く、そして力強く点滅していた。
「なんだこれ。クエストの報酬か何か?」
恐る恐るその文字に触れてみると、画面が鮮やかに切り替わった。
『新しい機能が解除されました』
【 詳細 】
期待と困惑が入り混じったまま詳細を選択してみる。すると、そこには誇らしげなアイコンと共に、待ち望んでいた言葉が並んでいた。
『友との交流:実績解除』
報酬:通話機能解除
「まじかー!」
思わず声が出た。
あった、本当に通話機能があったのだ。どうやらフレンドとメッセージを往復させたことがトリガーとなって、隠された実績が解除されたらしい。なんて手の込んだ、少しばかりお節介なシステムだろうか。
ただ黙々と噴水の周りを歩いて移動するのも手持ち無沙汰だし、これなら今の心細さも少しは紛れる。
せっかくだから、さっそくこの新機能のお世話になることにしよう。
自分は軽快な指さばきでメニューを操作し、usiことゆうちゃんの項目を選択した。そして、期待に胸を膨らませながら通話開始のボタンを押し込むのだった。




