第8話 現実への帰還と怒りの一撃
あれから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
ゲーム内の時計では、現実と比べてそこまで長い秒数が刻まれているわけではないのかもしれない。
だが、見知らぬ他人が行き交う広場の片隅で立ち尽くす自分にとっては、1分1秒がとんでもなく長く感じられた。
手持ち無沙汰を紛らわすように、何度もメニュー画面を呼び出しては閉じ、呼び出しては閉じを繰り返す。
ゆうちゃんからの返信は、一向に来る気配がない。
本人も一向に姿を現さない。
視界の端では、待ち合わせをしていたらしい冒険者たちが「お待たせ!」「おー、行こうぜ!」なんて親しげに合流していく。活気に満ちた噴水前で、自分だけが取り残されたように、ずっと1人のまま。
賑やかな広場にいるはずなのに、世界にたった1人で放り出されたような心細さが、次第に熱い塊となって胸の内に溜まっていく。
そして、ついに我慢の限界が来た。
「……もういい!」
人前で声を出すのを避けていたはずなのに、思わず小さな声が漏れた。
自分は勢いよくメニュー画面を開き、システムログから迷わず「ログアウト」の項目を叩いた。
視界が一瞬、深い闇に包まれる。
次の瞬間、目の前にはゲームのスタイリッシュなスタート画面が浮かび上がっていた。
どうやら、特にトラブルもなく無事にログアウトできたらしい。
重厚なゲーム装置を頭から外すと、見慣れた自分の部屋の景色が戻ってきた。
それと同時に、ソファに深く腰掛けたままのゆうちゃんの姿が視界に入る。
……こいつ。
ゲーム装置を被ったまま、まだログインし続けている。
自分がどれだけ心細い思いで待っていたかも知らず、のんきに電子の海を泳いでいるのかと思うと、怒りが頂点に達した。
自分は迷わずソファへ歩み寄り、ゆうちゃんの肩を「バシッ!」と力任せに叩いた。
「はふぁっ!? 」
突然の物理的衝撃に、ゆうちゃんが椅子から跳ね上がるようにして身をよじった。
どうやら、肉体的ダメージによる外部干渉での「強制ログアウト」に見事成功したらしい。
「『はふぁ!?』じゃない!」
装置を外して呆然としている彼に、自分は思わず声を荒らげた。
「なんでメッセージに返信しないのさ! 待ち合わせ場所にも来ないし! ずっと、ずーっと噴水の前で待ってたのに!」
ゆうちゃんはまだ寝ぼけたような顔をして、自分の頭をガシガシとかきながら、のんびりとした口調で答えた。
「メッセージ送るの面倒だったけん。噴水の前でずっと待っとったんばい。ユウおらんし、リアルでトイレ行っとるんだと思っとった」
「行ってないし!」
間髪入れずにツッコミを入れる。
いや、確かにゲーム開始直後は、あの不親切な精霊のせいでゲーム内のトイレの個室に閉じ込められていたけれども。リアルでは一歩も動いていない。
てか……そういう問題じゃない。
お互いに噴水広場で待っていたというのなら、絶対に会えないはずがないのだ。
確かに人の出入りは激しかった。けれど、自分と同じくらいの時間の長さを、あの噴水の前でずっと過ごしていたプレイヤーなんて他に誰1人いなかった。それこそ目につくほど長時間、自分はあそこに留まっていたのだ。
それなのに、一度も彼らしい姿を見かけなかったなんて。
納得がいかないまま、自分はソファに深く沈み込んでいるゆうちゃんを、不信感たっぷりの目つきで睨みつけた。




