第23話 兄貴の頼み(3)添付ファイル未確認
空間に浮かび上がったウィンドウに表示されたメッセージの内容は、あまりにも簡潔すぎるものだった。
食料品店が並ぶ通りのすぐ近くにある、とある装飾屋に来い。
詳細はそこで直接伝える。
頼みを聞いてくれたら、礼ははずむ。
以上。
いやいや、いくらなんでも短すぎだろ。業務連絡だとしても不親切極まりない。
「礼ははずむ」なんて景気のいい文言が添えられてはいるが、あのケチな兄貴のことだ。どうせゲーム内の初心者用ポーション数本とか、その程度のしょうもないアイテムに決まっている。
わざわざ仕事中の公式GMアカウントから個別に呼び出してくるくらいだ、面倒な雑用を押し付けられる未来しか見えない。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃサボりてぇ……。
よし、このメッセージ自体、最初から気づかなかったことにしよう。仕事が忙しくて通知を見落とすなんて現実でもよくあることだ。
そう都合よく自分に言い訳をして、俺は迷わずウィンドウの[閉じる]の文字に指先で触れた。
けれど、ウィンドウは消えない。
それどころか、視界の端に真っ赤な警告色をした小さなウィンドウが新たにポップアップしてきた。
【添付ファイル未確認のため、メッセージを閉じることができません】
どうやらこのメッセージには、何らかのデータファイルが添付されているらしい。そして、その添付内容を一度でも開いて確認しない限り、メインの通知画面すら絶対に消去できない鬼畜仕様になっているようだ。
まさか見て見ぬふりをしてスルーするという誰もが思いつく防衛策が、システム的に完全に封じられているとは思わなかった。
兄貴、マジで性格悪すぎだろ。身内の行動パターンを完全に読まれているのが最高に腹立たしい。
仕方なく、本当に仕方なく、俺は諦めてその忌々しい添付ファイルのアイコンを指先でタップしてみる。
その瞬間、パッと俺の足元の石畳に、淡い青色に発光する光の矢印が浮かび上がった。
どうやらこれが添付ファイルの中身、つまり指定された装飾屋までの最短ナビゲーションルートの自動生成だったらしい。
……おいおい、ここまでやるか普通?
「通知に気づかなかった」なんて言い訳は絶対に言わせねぇぞ、とでも言いたげな徹底ぶりだ。
これだけ足元で矢印がピカピカ光っていれば迷わず来れるだろ、四の五の言わずにさっさと来い。画面の向こうからそんな兄貴のドヤ顔と声が透けて聞こえてきそうで、なんだか無性にムカついてくる。
俺は誰にも聞こえないような大音量で、本日一番の深いおため息をひとつ吐き出した。
完全に観念した俺は、足元で健気に目的地を指し示し続けている光の矢印の方向へと、重い足を動かしてゆっくりと歩き出した。




