第22話 兄貴の頼み(2)まるで生きているみたいだ
商店街の喧騒から少し外れた場所にある、大きな門へと辿り着いた俺は、その両端に立っている鎧姿の衛兵たちの横をそのまま素通りして外へ出ようとした。
「おい、そこの兄さん。ちょいと待ちな」
門の左側をすり抜けようとしたまさにその瞬間、低く太い声に呼び止められる。
声の主は、左端に立っていたがっしりとした大柄な衛兵だった。
「……なんっすか?」
最新AIのNPCだよな、と頭の中で思いつつ、俺は足を止めて振り返る。
「この門の先には、いくら弱いとはいえ本物の魔物たちがうろついている。その頼りない初期装備のままで出ちまったら、囲まれた瞬間にすぐにやられちまうぞ。外へ出るってんなら、まずは装備を整えるか、安全な乗合馬車に乗りな」
衛兵は俺の貧相な布の服を一瞥すると、真剣な顔で注意を促してきた。
その後も、安くて質が良いと評判の初心者向け装備屋がある場所や、街の外へと向かう乗合馬車の発着位置などを、身振り手振りを交えながら非常に丁寧に教えてくれた。
驚いたのは、その説明の仕方が自然すぎることだ。
声の抑揚も、こちらの反応を見る間の取り方も、現実の人間そのものだった。事前に決まったセリフを喋らされているようなロボット感が一切ない。
……すげぇな。
兄貴の会社の技術力は大したものだ。本当に生きてる人間と話しているみたいだ。
「……てな感じに行けば、迷わず行けるはずだ。わかったか?」
親切な説明を終えた衛兵に向かって、俺は小さく息を吐いてから軽く頭を下げた。
「教えてくれてありがとな、助かったよ」
「良いってことよ。命を大事にしな」
門に背を向け、今来たばかりの商店街へと続く道を引き返しながら考える。
衛兵の忠告通りにまずは装備を整えるか、それとも最初から馬車に乗ってしまうか。普段はゲームをやらないとはいえ、せっかくの最新VRMMOだ。戦闘の感触がどんなものなのか、少しだけ試してみたい気はする。
現在の所持金は、と。
歩みを少し緩め、視界に半透明のメニュー画面を展開して確認する。
1000リル。
初期費用としてはこれだけあれば十分だろうか。とりあえずまずは安めの装備を整えてから、門の外で数体ほど試しに魔物を倒してみるか。
そう方針を決めて再び歩き出した、まさにその時だった。
ピコーン、と軽快な通知音が耳元で鳴った。
それと同時に、視界の右端に小さなシステムウィンドウがポップアップして開く。
【GM】RAIRUさんよりメッセージを受信しました。
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名前のアルファベット表記的に、どう考えてもあの兄貴だ。
昔からプライベートのネットゲームで頑なにこのキャラ名を愛用していたけれど、まさか自社の仕事の公式GMアカウントにまでそのまま使うとは思わなかった。職権乱用だろ。
身内の公私混同っぷりに若干呆れつつも、テスターとしてわざわざ個別に送ってきた内容のことが少しだけ気になる。
俺は視線のポインタを合わせ、空間の[開く]の文字を選択した。




