第21話 兄貴の頼み(1)(テスター視点)
今日は、俺の兄貴が勤めているゲーム会社が総力を挙げて開発したという、最新VRMMOの記念すべきサービス開始日だ。
「とにかく実際にプレイしてみて、率直な感想を聞かせてくれ」
数日前、実家に帰ったときに兄貴からそう熱っぽく頼み込まれ、半ば強引に最新のログインギアを押し付けられる形で、俺は今日この世界へとログインさせられた。
正直に言って、俺は普段こういうファンタジーやオンラインゲームといったジャンルはあまり遊ばない。完全に身内の義理による付き合いプレイだ。
「なるほど、これが噂のVRMMOの世界か……」
システムに言われるがまま一通りの遠隔チュートリアルを終わらせ、現在は特にこれといった明確な目的もないまま、ハチオウの街の石畳をふらふらと歩いている。
肌に当たる風の冷たさや、歩くたびに響く足音。五感がほぼ完璧に再現されているこの感覚は、確かに技術の進歩を感じるし、純粋に凄いなとは思う。
だが、非ゲーマーである俺の今のところの率直な感想は、一言で表すなら「思ったより普通」だ。
大通りですれ違うのは、俺と同じような、いかにも初心者ですと言わんばかりの初期装備の布の服を着た男たち。外見がそのままシンプルなワンピースになったような格好の女性たち。
たぶん彼らも全員、俺と同じ今日この日に始めたばかりのプレイヤーだろう。
街を行き交う人波をざっと観察してみた感じ、プレイヤーの男女比はだいたい半々くらいだろうか。
意外と女性の姿も多くて驚く。俺の勝手な偏見かもしれないが、こういうネットゲームというジャンルは全体の8割くらいが男で、中身が男の女性キャラ(いわゆるネカマ)を含めて画面上だけ半々になっているイメージがあったからだ。このゲームはシステム的に中身と性別が一致しているらしい。
そして、すれ違う人たちの容姿も実に様々だった。
ゲームだからといってアニメに出てくるようなとびきりの美男美女ばかりが溢れかえっているわけではなく、リアルな街中でどこにでもいそうな、親しみやすい普通の顔立ちが圧倒的に多い。
現実の性別から変更不可。さらにキャラクターの容姿は、ログイン時に完全自動で決定されるランダム生成。
兄貴の話では、それがこのゲームのリアリティを底上げするための最大の売り、というコンセプトらしい。
……まぁ、運営側の狙いは分からなくもない。仕方ないとは思う。
だが。
「せめて、ベースの顔の系統くらいはちょっとくらい選ばせてくれても良かったよな……」
自分のぱっとしない初期アバターを思い出し、歩きながら誰に言うでもなく小さく愚痴をこぼす。
せっかく仮想世界にまでやってきたのだ。どうせなら、ゲームをプレイしている間くらいは目の保養になるようなものが見たい。ゲームの中なんだし、それくらいの贅沢は許されてもいいはずだ。
どこかに歩いているだけで周囲の目を引くような、お目にかかるだけでテンションが上がる美女の一人や二人、歩いていないものだろうか。
そんな調子のいいことをぼんやりと考えていると、気がつけば、商店街の賑やかさから少し外れた場所にある、街の境界を示す大きな門の前へと辿り着いていた。




