第20話 ランダム生成が当たりだった
この仮想世界における自分の本当の顔との、記念すべき初対面。
本当は、ログイン前のキャラメイク画面で時間を忘れて、自分好みのパーツを組み合わせて作るつもりだったのだ。
「よーし、世界で一番完璧な美少女を作るぞー!」なんて、現実の自室で拳を握ってあれほど気合を入れていたというのに、まさかの強制的なランダム生成。あの瞬間の絶望感は忘れない。
……だがしかし、である。
自分で言うのもアレだけど、昔からネットゲームのレアガチャ運だけは異常に良かった自分だ。実生活の運をすべて注ぎ込んでいると言っても過言ではないあの豪運が、ここで発揮されなくてどうする。
今回も神様頼むぞ、と心の中で必死に祈りを捧げながら、起動したばかりのクリアな鏡を恐る恐る覗き込む。
そして次の瞬間、自分の目に映った光景に、思考が弾け飛んだ。
うおーーーー!!!!! めちゃくちゃテンション上がるわこれ!!!!
あまりの衝撃に、心の中で大絶叫する。
鏡の中には、極限の緊張から頬をほんのり上気させ、おずおずとこちらを覗き込んでいる一人の少女がいた。
サラサラと流れる上品な長い銀髪を高い位置でキュッとまとめ、ほんのりつり目がちでキリッとした印象を与える大きな二重まぶた。その奥にある深緑の瞳は、まるで最高級のサファイアのようにきらきらと輝いている。
見た目の年齢は……十五、あるいは十六歳くらいだろうか。現実の年齢よりもずいぶんと若返っている気がする。ゲームの初期アバターというのは、こういう少し青さの残る年齢層に調整される仕様なのだろうか。
お世辞抜きで、間違いなく、一億人が振り返るレベルの超絶美少女であります。
やばい。嬉しすぎて勝手に顔がニヤけそうになるのを、必死に理性で食い止める。
陽の光を反射してつやめく銀の髪。まるでお餅のようにつややかで、きめ細かく柔らかそうな白い肌。付けまつげもエクステも一切不要な、密度が高くてばさばさとした長いまつげ。ツンと綺麗に通った鼻筋に、果実のようにふっくらとした桜色の唇。
……あと、ついでにチェックしてみたけれど、胸のボリュームもまぁまぁ理想的なサイズがある。うん、素晴らしい。
良いところをあげだしたらキリがない。こんなに素晴らしいアバターが当たったのなら、はやく初心者デフォルトのダサい布の服を脱却して、もっと可愛い装備を着せ替えたり、色々な髪型に変更したりしてみたい。俄然、このゲームへのモチベーションが湧いてきた。
けれど、今はすぐ近くに店員さんの目が光っている。
そもそも自分は鏡を見る目的だけでこのお店に入っただけで、正直に言って、現時点では高価な装飾品にはそこまで興味はないのだが……。さすがに何も見ずに店を出るのは気まずいので、近くの棚に飾られていた、自分の瞳の色よりも少しだけ明るい、新緑のような緑色の石が付いた耳飾りをなんとなく手に取ってみた。
すると、その瞬間に視界に半透明のシステムウィンドウがポップアップする。
アイテム名:新緑の耳飾り
ステータス効果上昇:なし
販売価格:324リル
現在の所持金:1000リル
ほう。なるほど。
やっぱり初期の財布事情からすると、装飾品ってめちゃくちゃ高いな。これから戦闘用の武器とか防具も揃えて買い直さないといけないし、ここで3割以上を消費するのは流石に痛い。
そんな現実的なお財布計算を頭の中で巡らせながら、せっかくなのでその耳飾りをそっと自分の耳元にあてて、鏡写りのバランスを見てみる。
「あ」
「……ん?」
その瞬間、真横にいた店員の方から、何かを堪えきれなくなったような小さな吐息が聞こえた。
不思議に思って、耳飾りを持ったままそちらを振り返る。
……って、店員さん、あなたまたフリーズしてない?
さっきのバグ?と同じように、彼は私と視線が合った瞬間に大慌てで視線を斜め下へと逸らし、顔全体を真っ赤にしたまま石のように固まっている。よく見ると、髪の隙間から覗く耳の先までほんのり赤く染まっていた。
いやいやいや、おかしいでしょ。
サービス開始初日の人型NPCに、いくら最新AIだからって、プレイヤーのちょっとした仕草にここまでリアルに照れるようなリアクション機能が流石に実装されているわけがない。……ないよね?
とりあえず、これ以上居座るのもシステムに悪そうので、耳飾りをそっと元のディスプレイ台へと戻した。
「ありがとうございました。本当に良いお品が沢山あって悩んでしまいますね。またお金を貯めて、日をあらためてゆっくり見に来たいと思います」
「は……はいっ! またのご来店を、心よりお待ちしております!」
心なしか、店員さんの返事の声が微妙に裏返って上ずっている気がするが、きっと最新の音声合成のバグか何かの気のせいだろう。
そう自分を納得させると、自分は予想以上の大収穫に心の中でガッツポーズをしながら、大満足で装飾屋の店を後にしたのであった。




