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夫よ!殺しに行くから待ってろよ!~VRゲーム内にて夫をキルしに行く話~  作者:


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第19話 今時のAIは口が上手い

お目当てである装飾屋の年季の入った木製の扉をそっと押し開けると、それと同時に扉の上に取り付けられた小さな鈴が鳴った。


 ちりん、と澄んだ涼しげな音が静かな店内に優しく響き渡る。


「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりご覧ください」


店の奥にあるカウンターから、低く穏やかな男性の声が聞こえてきた。


 幸いなことに、店内には今のところ自分の他に他のお客の姿は見当たらない。貸切状態だ。


 見渡す限りの壁や木製の棚には、きらびやかな首飾りや耳飾り、繊細な細工の指輪などが一つ一つ丁寧に並べられている。ガラスケースの向こうで本物の宝石らしきものが店内の光を受け、きらりときらめきを反射していた。


 自分は気後れしそうになるのを隠しながら、きらきらした装飾品が並ぶコーナーへとゆっくり歩いていく。


これだけアクセサリーが充実している場所だ。この辺りを探せば、目的のものは確実にあるはず。


鏡、あるよね?


「あれ……?」


……ない。おかしい。


棚の上にも、壁の広いスペースにも、奥のカウンターにも、それらしき鏡が一切見当たらないのだ。


 この世界の人たちは、どうやって自分にその耳飾りや首飾りが似合っているかどうかを確かめているのだろうか。まさか、鏡も見ずに自分の完全なセンスと感覚だけで購入しているとでもいうの?


「お客様、どうかなさいましたか?」


 鏡を探してきょろきょろとしていた、まさにその真後ろから不意に声がした。


 驚いて勢いよく振り返ると、そこには飴色のさらりとした髪に、新緑のような綺麗な緑色の瞳をした、二十代前半くらいの男性店員が立っていた。


 仕立てのいいエプロンを身に纏い、穏やかな雰囲気を崩さない、なかなかに整った顔立ちのイケメンだ。


 ……そして。


「っ……」


ん?


 声をかけてくれたはずの店員さんの様子が、何やら明らかにおかしい。


「あの……?」


 こちらからおずおずと声をかけてみても、店員さんはピクリとも動かない。


 まるで完全に画面がフリーズしてしまったかのように、目を丸くしたまま、じっとこちらの顔を凝視している。


不審に思って、目の前で手のひらを左右にパタパタと振ってみたけれど、やっぱり何の反応も返ってこない。


 ……あ、これバグった?

 まぁ、今日サービス開始したばかりの最新のフルダイブゲームだしね。こういう想定外のシステムエラー的なこともあるよね、と一人で勝手に納得する。


本格的な人型NPCとの会話はこれが初めてなので内心ガチガチに緊張しているのだけれど、もう一度だけ、少し声を張って尋ねてみることにした。


「あの、大丈夫ですか?」


すると、ハッと我に返ったかのように、店員さんが急に勢いよく動き出した。


「あ、申し訳ありません……っ! その、お客様があまりにもお美しかったので、不躾ながら、つい見惚れてしまっていました」


店員さんは少しだけ白い頬を恥ずかしそうに染めながら、申し訳なさそうに、けれどにこりと爽やかに微笑んだ。


 ……え?

 今、このお兄さんなんて言った?


 「見惚れてた」って、今度はこっちの思考がフリーズしそうになる。


 なるほど、今時のゲームのAIというのは、お客さんを喜ばせるお世辞の口が本当に上手いんだな。最新技術の進歩って凄い。


「本日は、どのような商品をお求めでしょうか?」


 何事もなかったかのように気を取り直した店員さんが、プロフェッショナルな笑顔で尋ねてくる。


「えっと……耳飾りや首飾りにどのようなものがあるのか見に来たのですけど。自分に似合うかどうか、鏡を見て確認したいなと思いまして……。あの、鏡はどちらにありますか?」


 現実でもネットでも、人と面と向かって話すのがあまり得意ではない自分は、自然と目線を少し斜め下へと下げながら、早口で一気に用件を喋りきった。


「あ、なるほど! 大変失礼いたしました。デフォルトの設定で、鏡の機能がOFFになっていたみたいですね。すぐに起動いたします」


 店員さんは納得したように頷くと、近くにあった耳飾りのディスプレイ台の上へと移動し、そこに設置されていた手のひらサイズの黒いモニターらしき板状の物体に指先で触れた。


すると、真っ黒だった画面が瞬時にクリアな光を放ち、魔法のように景色を映し出す本物の鏡へと変化して、店員さんの指先を綺麗に反射し始める。なるほど、姿見もデジタル仕様なのか。


「お待たせいたしました。どうぞ、こちらをお使いください」


「あ、ありがとうございます」


 親切な店員さんに軽く頭を下げ、自分は一歩、また一歩と、その起動した鏡の前へとゆっくり進み出る。


――いよいよだ。


 ごくりと固唾を呑みながら、自分はついに、鏡の向こうに映る自分の姿へと視線を投げかけた。

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