第12話 通話を切った理由
視界の端で激しく踊る青い光の粒子と、空中に大きく表示された『usi』の文字。自分は迷わず、その横にある通話のアイコンを指先でタップした。
すると、激しく舞い上がっていた光の粒子がスッと一点に集まり、耳元に寄り添うような定位置でピタリと静止した。
この神出鬼没で、どこか人を食ったような小賢しい挙動。うん、もう確定でいいよね。この蛍のような光は、あの案内役の精霊フィーの親戚確定だ。
改めてそう確信した自分に、光の核から聞き慣れた、けれど少しだけ電子的な響きを帯びたゆうちゃんの声が聞こえてきた。
「ゆう! すまん! 勝手に切断なった」
開口一番、申し訳なさそうというよりは、何が起きたか自分でも完全には把握しきれていないといった、驚きを隠せない調子の叫びが届く。どうやら、さっきこちらからの通話が唐突に途切れた原因は、やはりこのフィーの親戚らしき演出にあったらしい。
真相を知って力が抜けたが、そこはあえて、少しだけトーンを落とした不機嫌そうな声を作って返してみることにした。
「usiよ! なんで通話にでずに切断したのかな?」
メッセージを打つ時はいつもの癖でリアルの呼び名のまま送ってしまったが、この世界ではどこで誰が聞き耳を立てているか分からない。周りに人は少ないとはいえ、用心に越したことはないだろう。自分はあえて、彼のプレイヤー名であるusiを呼び名に選んだ。
すると、通信の向こう側でusiことゆうちゃんが、どこか興奮気味な口調でまくし立て始めた。
「いや、それがさ! なんか変な曲とともに、いきなり変な光がぐるぐるまわりを飛び出したけん。変なイベント始まったと思って、捕まえようとしたらなかなか捕まんくて。噴水の前でずっと格闘しとったんだけど、やっとの思いで捕まえた瞬間に、音といっしょに光まで消えて。ふと見ると、お知らせ画面が真っ赤に点滅しとってさ」
「つまり?」
支離滅裂になりそうな説明を遮るように、自分は話をまとめるべく聞き返した。
「確認したら、『通話を切断しました』って冷たく表示されとった。あれ、通話の演出だったんだな……」
「あー……なるほど。状況は完全に分かった」
呆れを通り越して。感心の溜息が漏れる。
つまりゆうちゃんは。最新の通話エフェクトを期間限定の隠しイベントか何かだと勘違いし。全力で捕獲しようと格闘した結果。光を物理的に掴み切断してしまったということらしい。
「んで、なんですぐに折り返してこなかったのさ。切ったのが間違いだったって分かったなら、すぐにかけ直すのが普通でしょ」
原因が分かったのなら、一刻も早く合流するために連絡をよこすべきだ。数分間も放置されていた理由が分からず問い詰めると、ゆうちゃんは心底申し訳なさそうな。それでいて少し納得がいかないといった様子で答えた。
「それがペナルティくらっとったけん、しばらく通話とメッセージがロックされとって連絡できんかった」
「……ペナルティ?」
思わず耳を疑った。
どうやらこの世界には、厳格な罰則規定があるらしい。フルダイブゲーのリアリティは、こういう妙に世知辛いシステム面でも。徹底して発揮されているようだった。




