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行きたくない英雄

数日後。


店の前に、立派な馬車が止まっていた。


磨き上げられた車体。紋章入り。どう見ても王城の迎えだ。


「はいはい、行ってらっしゃい」


姐さんは満面の笑みで手を振る。


「お土産いらないわよー」


(……欲しいのね)


ノエルは心の中で即座にツッコんだ。


その笑顔とは対照的に、ノエルはこれ以上ないほど大きなため息をつく。


「……はぁーーーー……」


重い。とにかく、重い。


 


――そして。


 


馬車の中。


 


「行きたくない」


ぽつり。


 


「帰りたい」


続けて。


 


「何を話せばいいの?」


さらに。


 


「ていうかさ、今から魔物大量発生しないかな」


一拍。


 


「そしたら行かなくていいのに」


 


「縁起でもないこと言うなよ」


向かいに座っていたルークが、苦笑いを浮かべる。


 


ノエルはしばらく黙っていた。


 


それから、すっと立ち上がる。


 


「……?」


 


次の瞬間。


 


がさっ。


 


ルークの隣に移動してきた。


 


「ルーク!」


勢いよく声をかける。


 


「本当に行きたくないのよ、私!」


ぐっと手を掴む。


熱い。無駄に熱い。


 


「自分でも驚くぐらいに嫌なの!」


 


「……そうか」


完全に他人事の相槌。


 


「これならね、物凄く強い魔物倒した方がマシだと思うの!」


真剣な顔で言い切る。


 


「それは言い過ぎだろ」


 


「言い過ぎじゃない!」


 


ぐいっと身を乗り出す。


 


「だって魔物はさ!殴れば倒れるじゃない!」


 


「まあな」


 


「でも貴族は倒せないのよ!」


 


「妹だろ?倒すなよ」


 


ノエルは、はぁぁ……と大きく息を吐いた。


 


「……帰りたい」


 


三回目。


 


ルークは、少しだけ考えるように視線を上げた。


 


「じゃあ、やめるか?」


 


ぴたり、と止まる。


 


ノエルの動きが完全に固まった。


 


「……」


 


沈黙。


 


「……いや」


小さく呟く。


 


「行くけどさぁ……」


 


一拍。


 


顔をくしゃっと歪める。


 


「いやなのーーーーーー!!!!」


 


馬車の中に響き渡る絶叫。


 


御者がびくっとするレベルだった。


 


ルークは、ため息をついた。


 


「……うるさい」


 


「だって嫌なんだもん!」


 


「知ってる」


 


「本当に嫌なの!」


 


「それも知ってる」


 


「ねぇ今からでも遅くないよね!?」


 


「遅い」


即答。


 


「なんで!?」


 


「もう半分来てる」


 


「うそでしょ!?」


 


ノエルはがばっと窓に張り付く。


 


外を見る。


 


戻れない距離だった。


 


「……終わった」


 


がっくりと肩を落とす。


 


そのまま、ずるずると座席に沈んだ。


 


「……ねぇルーク」


 


「なんだ」


 


「私、帰ってきたら褒めて」


 


「なんで」


 


「頑張るから」


 


「当たり前だろ」


 


「優しくない」


 


「優しいだろ」


 


「優しくない」


 


「……」


 


ルークは、軽く息を吐いた。


 


ちらりと隣を見る。


 


ぐったりしているノエル。


 


ほんの少しだけ、口元が緩む。


 


「……ほら」


 


小さく言う。


 


「着いたら、ちゃんと隣にいるから」


 


一拍。


 


ノエルが、ゆっくり顔を上げた。


 


「……ほんと?」


 


「ほんと」


 


それだけで。


 


少しだけ、顔がマシになる。


 


単純だった。


 


――王城へ向かう馬車の中。


 


厄災を退けた英雄は。


 


今日に限っては、ただの問題児だった。

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