行きたくないです
それから、少し経った頃だった。
店に、一通の手紙が届く。
封蝋。上質な紙。見慣れた紋章。
ノエルは、それを見た瞬間に顔をしかめた。
「……うわ」
嫌そうな声が漏れる。
封を切る。中身に目を通す。
――王城にて、お会いできれば嬉しく思います。
短い。けれど、逃げ道はなかった。
「どーしよー。行きたくなーい」
心底嫌そうに、ぐでっと力を抜く。
その様子を見ていた姐さんが、呆れたように眉を上げた。
「どうしてよ。せっかく妹からのお誘いでしょ?」
「嫌ですよ」
即答だった。
顔も上げないまま、ぼそっと続ける。
「私こう見えて人見知りなんですよ」
一拍。
「しかも王城とか、絶対何かあるじゃないですか」
疑いに満ちた声。
姐さんは大きくため息をついた。
「あんた、そんなんでよく令嬢やってたわね……」
「人生の大半、じゃがいもに費やした令嬢ですけど?」
さらっと言い切る。
姐さんは、盛大に頭を抱えた。
「意味わかんないのよそれ……」
それから、パンと手を叩く。
「ぐだぐだ言ってないで、行ってきなさい」
ぴしっと指をさす。
「イケメンと一緒にね。店は大丈夫だから」
ノエルが、じとっとした目でルークを見る。
「……ルーク、行きたくないわよね?」
巻き込みに来た。
ルークは一瞬だけ視線を向ける。
それから、ほんの少し考えて。
「……行った方がいいのでは」
静かに言った。
間。
「ほら」
姐さんがすかさず頷く。
ノエルは、盛大にため息をついた。
それから、ぎろりとルークを睨む。
ルークは――何も言わず、すっと視線を逸らした。
見て見ぬふり。
その態度に、さらに眉が寄る。
「……覚えときなさいよ」
小さく、ぼそりと呟く。
けれど。
その声は、どこかほんの少しだけ――拗ねていた。




