表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/93

聖女ではありません

王城に着いたとき、まず目に入ったのは庭だった。


広い。息を呑むほどに整えられた空間。


色とりどりの花が、季節を忘れたかのように咲き誇っている。風が吹くたび、柔らかな香りが揺れた。


その中心に、白いテーブル。


二つの人影があった。


ひとりは――アルファード・アルディオン。

静かに座り、こちらをまっすぐ見ている。


そしてもうひとり。


ルミエラ・ヴァルグレイス。


柔らかな微笑み。だが――どこか、薄い。


 


ノエルは一歩前に出る。


背筋を伸ばし、完璧な角度で一礼した。


「この度は、お招きいただきありがとうございます」


淀みない声。作り上げられた令嬢の姿。


 


「お姉様ー」


ぱっと顔を輝かせるルミエラ。


「ずっと、こうしてお話してみたかったんです」


 


その言葉に、ノエルは一瞬だけ目を細めた。


だがすぐに、穏やかな笑みに戻る。


「ありがとうございます」


優雅に微笑む。


「わたくしもですわ」


 


当たり障りのない言葉が、静かに交わされる。


 


紅茶が注がれる。


カップが触れ合う音だけが、やけに大きく響いた。


 


風が、少しだけ止まる。


 


その沈黙を。


 


ルミエラが、ゆっくりと吸い込んだ。


 


「お姉様」


声の温度が、ほんのわずかに変わる。


 


指先が、カップの縁をなぞる。


白い指が、ほんのわずかに震えていた。


 


「わたくしは……この前の戦いで」


 


一瞬だけ、視線が落ちる。


 


――あの森。


 


黒い空気。歪んだ光。

焼けるように広がった“何か”。


 


「聖女の光の中に、魔素を取り込んでしまいました」


 


一拍。


 


ノエルの指が、止まる。


 


「……取り込んだ、というより」


 


ルミエラは、小さく首を振った。


 


「混じったのです」


 


静かに。


言い切る。


 


「わたくしの光ではないものが……確かに、そこにありました」


 


その声に、迷いはなかった。


 


「正直に申し上げます」


 


ルミエラは、まっすぐにノエルを見た。


逃げない視線。


 


「わたくしは――聖女ではありません」


 


風が、止まる。


 


花の香りだけが、場に残った。


 


「……え?」


 


ノエルの声が、わずかに遅れて落ちる。


 


それは、問いではなかった。


 


ただ。


理解が追いつかないまま、零れた音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ