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許さない

夕方。店の裏口。客足が一度落ち着いた隙を見て、ノエルは外套を羽織った。指先が無意識に首元へ伸びる。――まだ消えていない。


(……ほんと、最悪)


小さく息を吐く。


「夜までに帰ってきます。行ってきまーす」


誰にも聞こえないように軽く言って、扉に手をかける。


「どこに」


背後から、低い声。


止まる。振り返ると、ルークが立っていた。無愛想な顔。その目だけが真っ直ぐこちらを見ている。


「……ちょっと買い物に」


視線を外す。


一拍。


ルークが、鼻で笑った。


「絶対嘘だろ」


一歩、近づく。


「またその跡つけた男のとこ行くのかよ」


ノエルの眉がぴくりと動く。


「……そうだけど」


わざと強く言い返す。


「なに。ルークには関係ないでしょ」


空気が、張り詰める。


――ぐいっ


腕を掴まれる。


「っ」


逃がさない力。


「行かせない」


低く、押さえつける声。


ノエルは睨み上げる。


「離して」


「関係ないって言ってるでしょ」


「あるだろ」


即座に被せる。


距離が、さらに詰まる。


ルークの視線が落ちる。首元。


「……ノエルの体の中に違う魔力、残ってる」


ノエルが一瞬だけ目を見開く。


「治癒魔法受けたから。ほら、ここ」


指で示す。あの場所。


その瞬間、ルークの手に力が入った。


「……ふざけんな」


低く、噛み殺す。


「俺以外お前を治癒するのは許さない」


そのまま、引き寄せられる。


「っ、ルーク――」


呼んでも、答えない。目も合わない。


ただ、首元に触れる。


同じ場所。あいつが触れた場所。


ぎり、と奥歯を噛む気配。


一度。


――離れない。


もう一度。


同じ場所に、何度も。


上書きするみたいに。


消そうとするみたいに。


「……っ、ルーク」


声が漏れる。


それでも、止まらない。


「……やめて」


肩を押す。


「ねぇ、やめてってば」


少し強く。


それでも。


止まらない。


「……っ、やめてって言ってるでしょ!」


声が荒くなる。


その瞬間、ぴたりと止まった。


ルークの呼吸だけが近い。


それでも、目は合わない。


「……そんなに嫌なら」


低く、かすれた声。


「命令すればいいだろ」


ノエルの肩がびくりと揺れる。


「奴隷契約で」


ゆっくりと言う。


「俺に、やめろって」


一拍。


「……できるだろ」


空気が張り詰める。


ルークの手は、まだ離れていない。


「俺はお前の奴隷なんだから」


吐き捨てるように。


でも、その声は――どこか壊れそうだった。


ノエルは言葉を失う。


命令すれば、止まる。


本当に、止まる。


でも――


(……なんで)


胸の奥が、ざわつく。


「……っ」


結局、何も言えない。


その沈黙を見て、ルークの手がゆっくりと離れた。


「……ほらな」


小さく。


笑うでもなく。


ただ、諦めたみたいに。


一歩、距離が空く。


触れていた場所だけが、やけに熱く残っていた。


外の空気は、もう夜の匂いだった。

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