ちゃんと戻りました
――店の中。
「はぁー……」
ノエルが椅子にぐったりと座り込む。
「なんか一気に疲れました……」
姐さんが鼻で笑う。
「そりゃあんだけ大立ち回りすりゃね」
一拍。
「で?」
腕を組む。
「腹減ってんでしょ」
ノエルが、ぴくりと反応する。
「……減ってます」
即答だった。
ルークが小さく笑う。
「さっきまでの空気どこいったんだよ」
「だってお腹空いたんだもん」
むすっとするノエル。
姐さんが、にやりと笑った。
「いいわよ」
くるりと背を向ける。
「この姐さんが、最高の飯作ってあげる」
鍋に火が入る。
じゅわ、と音が立つ。
香ばしい匂いが、ふわりと広がる。
ノエルの喉が、こくりと鳴った。
「……いい匂い」
ぽつりと零れる。
ルークが、少しだけ目を細めた。
皿に盛られる。
湯気が立つ。
「ほら」
姐さんが、どん、と置く。
「食べなさい」
ノエルは、ゆっくりとスプーンを取る。
一口。
口に入れる。
――その瞬間。
ぴたり、と動きが止まった。
「……え?」
もう一口。
「……え、ちょっと待って」
もう一口。
「え、なにこれ」
顔が、ぐしゃっと歪む。
「……美味しい」
ぽろり、と零れた。
「え……」
自分の手を見る。
皿を見る。
「……なんで……?」
声が震える。
「なんで……味、わかるの……?」
姐さんが、ふっと息を吐く。
「だから言ったでしょ」
腕を組む。
「ちゃんと食ってりゃ、戻るって」
ノエルの目から、ぽろぽろと涙が落ちる。
「……美味しい」
もう一度。
「……美味しい……!」
今度は、ちゃんと笑っていた。
ぐしゃぐしゃで。
でも、ちゃんと。
ルークが、それを見ていた。
静かに。
「……よかったな」
小さく、呟く。
ノエルが顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃのまま、笑う。
「うん……!」
姐さんが、ふんっと鼻を鳴らす。
「ほら見なさい」
少しだけ、照れたように。
「私の飯がまずいわけないのよ」
店の中に。
笑い声が、広がった。
その音は――
もう、ちゃんと温かかった。




