嬉しいと、嬉しいのでした
扉が開く。
「ただいま――」
言い切る前に。
――ぐいっ。
「っ」
ノエルの腕が、勢いよく伸びた。
そのまま、迷いなく――ルークに抱きつく。
「おかえりなさいませ……って、おい」
わずかに体勢を崩しながらも、ルークは受け止める。
その腕は自然とノエルの背へ回っていた。
「ルーク!」
顔を上げる。
瞳が、きらきらと光っている。
「聞いて、今日ね――」
言葉が止まらない。
「ルミエラがね、すごかったの。私のこと、ちゃんと……ちゃんと“お姉様”って呼んでくれて」
息を弾ませながら続ける。
「王様も、騎士団も、みんな……頭下げてくれて」
一瞬だけ、声が揺れる。
「認めてくれたの」
ぎゅっと、抱きしめる力が強くなる。
「……ルークも一緒に祝ってほしかった」
ぽつりと、落ちた本音。
一拍。
ルークは、少しだけ目を細めた。
「いらない」
短く言う。
ノエルが、ぴたりと動きを止める。
「そんな称賛より」
ゆっくりと、言葉を落とす。
「ノエルが、みんなに認められてよかった」
まっすぐな声だった。
その言葉に。
ノエルの瞳が、ふっと緩む。
「……そっか」
小さく笑う。
その横で。
「……あらっ」
姐さんが腕を組み、にやりと口角を上げた。
「イケメン度、増したわね」
「褒めてるのかそれ」
「褒めてるわよ。悔しいけど」
軽口が飛ぶ。
けれど。
ノエルは、もうそれすら聞いていなかった。
ただ、嬉しそうに笑っている。
心の底から。
それを見て。
ルークの表情も、わずかに緩む。
――その瞬間。
「ねぇ、ルーク?」
ふいに。
ノエルが顔を上げた。
ルークは一瞬だけ驚いたように目を見開く。
「私が嬉しそうにしてると、嬉しい?」
まっすぐな問い。
迷いも、駆け引きもない。
ただ、そのままの言葉。
ルークは少しだけ瞬きをして――
それから、くすっと小さく笑った。
「嬉しいよ」
即答だった。
その言葉に。
ノエルの表情が、ぱっと明るくなる。
ぎゅっ、と。
もう一度、強く抱きしめる。
それから、ぱっと離れて。
満面の笑み。
「私もね」
まっすぐに、言う。
「ルークが嬉しそうにしてると、嬉しいよ」
一拍。
「ルーク、大好き」
そのまま、もう一度抱きついた。
今度はさっきより、少しだけ優しく。
ルークは、何も言わない。
ただ――
その顔は、どうしようもなく、幸せそうだった。
その空気に。
「……ねぇ」
ぽつりと、姐さんの声。
「私を置いてけぼりにしないでちょうだい?」
呆れたように言いながらも、どこか笑っている。
ノエルが顔だけ向けて、にこっと笑う。
「姐さんも大好きー!」
「はいはいっ」
ひらひらと手を振る。
「テンション上がっちゃって、まあ」
けれど、その声はどこか柔らかい。
店の中に、笑い声が広がる。
さっきまでの重さは、もうどこにもない。
ただ。
あたたかくて。
優しくて。
ただ――
あたたかい音だけが、そこにあった。




