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報われました

沈黙を、裂いたのは――


「ふざけるな!」


ヴァルグレイス侯爵の声だった。


「お前は何を言っている、ルミエラ!」


場の空気が一瞬で崩れる。


「……あいつはな」


ノエルを指差す。


「お前を傷つけようとしたから、仕方なく――」


「そうよ!」


母の声が重なる。


「だから辺境へ送ったの! あの子のためでもあったのよ!」


言い訳。


取り繕う声。


場違いなほどに、必死だった。


ざわめきが広がる。


その中で。


ルミエラは――ただ、静かに聞いていた。


そして。


「……そうですか」


短く、そう言った。


一拍。


「ですが」


顔を上げる。


その瞳は、もう揺れていない。


「私は、もう決めましたので」


それだけで、終わりだった。


もう、言葉は届かない。


もう、引き返さない。


「――控えよ」


低く、よく通る声が落ちる。


アルファードだった。


場の空気が、一瞬で凍りつく。


「ここは王の御前である」


視線が、侯爵へと向けられる。


逃げ場はない。


「これ以上の無礼は、許さぬ」


言い切る。


完全な沈黙が落ちた。


侯爵も、母も、言葉を失う。


動けない。


ただ、その場に立ち尽くすしかなかった。


――そして。


ルミエラは、ゆっくりと歩き出した。


向かう先は。


ノエル。


ざわめきが、再び広がる。


誰もが見ている。


その中を、まっすぐに。


迷いなく。


ノエルの前に立つ。


そして。


深く、頭を下げた。


「――お姉様」


その呼び方に。


空気が、揺れた。


「今までの非礼、申し訳ございませんでした」


さらに、深く。


「そして――」


一拍。


「この国を、二度も守っていただき」


声が、わずかに震える。


「ありがとうございました」


静寂。


その瞬間。


――動いたのは、一人ではなかった。


王が、ゆっくりと立ち上がる。


アルファードも。


アルシオンも。


王族関係者が。


そして――騎士団が。


一斉に。


ノエルへと向き直る。


深く。


深く。


頭を下げた。


ざわめきが、止まる。


誰も、声を出せない。


これは――


断罪ではない。


これは――


称賛でもない。


これは。


“感謝”だった。


国としての。


意思だった。


ノエルは――


動けなかった。


「……え」


声が、漏れる。


理解が、追いつかない。


「……なんで……」


視線が、揺れる。


王。


騎士。


王子。


全員が、自分に頭を下げている。


「どうして……」


こんなこと。


望んだことなんて、一度もなかった。


ただ。


認めてほしかっただけ。


ただ。


名前を呼んでほしかっただけ。


それなのに。


目の前にあるのは。


あまりにも、大きすぎるものだった。


「……っ」


呼吸が、乱れる。


足が、わずかに震える。


そのとき。


ふっと。


顔を上げたルミエラと、目が合った。


ルミエラは――


微笑んでいた。


あの日と同じ。


まっすぐな笑顔で。


「あの戦いは」


静かに言う。


「国の英雄、そのものでした」


一拍。


「ですから」


少しだけ、いたずらっぽく。


「サプライズです」


その一言で。


すべてが、繋がる。


――最初から。


この場は。


この夜は。


自分のために、用意されていた。


「……っ」


視界が、滲む。


もう、止まらない。


ぽろぽろと、涙がこぼれる。


隠せない。


隠す必要も、なかった。


「……なんで……」


笑ってしまう。


泣きながら。


ぐしゃぐしゃになりながら。


「……そんなの……」


言葉にならない。


胸がいっぱいで。


何も言えない。


それでも。


一つだけ。


確かに分かる。


――報われた。


その瞬間だった。



会場は、まだ頭を下げたまま。


誰一人として、顔を上げない。


それが。


この国の、答えだった。


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