表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/93

大きい顔で行くことにしました

すっかり日が落ちていた。

店内は、しんと静まり返っている。客の姿はなく、灯りだけがぽつりと揺れていた。

奥の鍋から、コトコトと小さな音がする。その音だけが、やけに大きく響いていた。


ノエルとルークは、何も言わずに立っていた。

さっきの空気が、まだ抜けない。


――その静寂を。


ドン、と勢いよく扉が開いた。


「ちょっと〜聞いてよ〜! いい感じの男にね――」


明るい声が、店に飛び込んでくる。


だが。


「……って、どうしたの? あんたたち」


足が止まる。


二人の顔を見て、姐さんは眉をひそめた。


「私より暗い顔してるじゃない」


軽口のはずの言葉。けれど、その視線はちゃんと二人を見ていた。


ノエルは少しだけ迷ってから、口を開く。

さっきの出来事を、順を追って話した。


王子の来訪。

招待状。

パーティーの話。


話し終えたとき、店は再び静かになった。


「……ふーん」


姐さんは腕を組む。


「……あんた、本当に令嬢だったのね」


「そこなんですか?」


思わず返す。


姐さんは気にした様子もなく、肩をすくめた。


「別に行けばいいじゃない。案外楽しいかもよ」


さらりと言う。


「私はイケメンとお留守番してるわ」


そのまま、ぐいっとルークの腕を組んだ。


ルークの顔が、心底嫌そうに歪む。


ノエルは目を瞬かせた。


「……え?」


「なぁに? 嫉妬?」


姐さんはにやりと笑う。


「大丈夫よ。私、年上がタイプだから。いくらイケメンでも手は出さないわよ」


「いや、そうじゃなくて……」


ルークが低く返す。


「なぁに? まだ何かあるの?」


姐さんはぐっと顔を近づける。


「え? 励ましてほしいわけ?」


一拍。


「無理よ」


即答だった。


ノエルが目を瞬かせる。


「そんなウジウジ考えたって、現状何が変わるのよ?」


腕を組む。


「行くか行かないか、それだけでしょ」


言葉が、真っ直ぐ落ちる。


「……あんた、強いんでしょ?」


ノエルの目が、わずかに揺れる。


「うるさいのがいるなら――」


姐さんは、にやりと笑った。


「ぶっ潰して帰ってきなさいよ」


「姐さん、それは斬新すぎます」


思わず漏れる。


けれど、姐さんは気にしない。


「なによ。パーティー会場の連中、拳で黙らせられるんでしょ?」


当然のように言う。


「そんなの、大きい顔して行くしかないじゃない」


一歩、近づく。


「私ならね、二回も厄災救ったんだから」


胸を張る。


「ドヤ顔で行くわよ」


その言葉に。


ノエルは、ほんの少しだけ目を見開いた。


驚いた。


あまりにも乱暴で、あまりにも単純で。


けれど――


不思議と、すとんと落ちた。


「……」


手の中の招待状を、そっと握る。


逃げるか。

行くか。


その問いが、少しだけ形を変える。


(……大きい顔で)


思わず、口元が緩んだ。


「……ふふ」


小さく笑う。


さっきまでの重さとは違う。


ほんの少しだけ――前を向いた笑みだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ