味がしませんでした
「最初からそう言いなさいよ」
店主が、鼻で笑った。
「美味しくないと思ったんでしょう?」
「いやーでも……」
ノエルが口をぱくぱくさせる。言葉を探しているのに、うまく掴めない。
店主はじっと見つめたまま、にやりと口角を上げる。
「傷つけたくなかったとか?」
ぴたり、と。
ノエルの動きが止まった。そのまま、視線が落ちる。図星だった。
向かいで、ルークが固まったままノエルを見ている。
「あははっ!」
店主が声を上げて笑った。
「嘘つかれる方が、よっぽど傷つくわよ」
くるり、と視線を動かす。
「あ! ここにも傷ついてる子、はっけーん!」
ルークの方を指差す。
「え?」
ルークが一瞬だけ間の抜けた声を出す。
「いつから?」
その問いに、ノエルが答える。
「……この前、お父様に会ってから」
少しだけ間を置いて。
「何食べても、味がしないの」
静かな声だった。
ルークの表情が変わる。
「なんで、今まで言ってくれなかった」
低く、押さえた声。
ノエルは、何も言わない。視線を落としたまま。
沈黙が落ちる。
その空気を、店主が割った。
「はいはい」
ぐい、とルークの肩に腕を回す。
「傷つけたくなかった、心配かけたくなかった――」
ノエルをちらりと見て、くすっと笑う。
「乙女心ってやつよ」
ルークは何も言い返せない。ただ、視線だけが揺れる。
「でもねぇ」
店主が、ゆっくりと立ち上がる。
「私の作った天才的に美味しいご飯の味が分からないとか」
腕を組み、見下ろす。
「ムカつくのよ」
びしっ、とノエルを指差した。
「だから、このお姉さんが付き合ってあげるわ」
一拍。
「アンタ、ここで働きなさい」
「……は?」
ルークの声が重なる。
「なにを……この方は貴族令嬢ですよ。今はお忍びで――」
「だから何よ?」
ぴしゃり、と遮られる。
店主は一歩も引かない。
「この店で一番偉いのは、私」
顎を上げる。
「国王より、ここでは私が偉いの」
じっと睨む。
「……なんか文句ある?」
ルークは言葉を失う。
その横で――ノエルは、ぽかんとしていた。
本気で、理解が追いついていない。
国王より偉い。
そんな発想、今まで出会ったことがない。
けれど――それが、妙に面白かった。
ふっと、口元が緩む。
「……わかりました」
静かに、そう言った。
ルークが振り向く。
「ノエル――」
ノエルは、くすっと笑った。
「ちょっとくらい、庶民の生活を知るのもいいでしょう?」
それはいつもの軽さだった。
けれど――その奥にあるものを、ルークだけが見ていた。




