でも、可愛いんだよ
「さぁ」
ノエルが、軽く手を叩いた。
「復讐も済んだし」
あっさりと言う。
「ガランの目も届かないことだし」
「王都で遊びましょう」
迷いはない。
「とりあえず、こんな素敵な庶民宿にも泊まれたし」
「次は出店で食べ歩きしたいわ」
ルークが眉を寄せる。
「……その格好だと、悪目立ちする」
「ルークの服も目立ってるわよ?」
一拍。
「あ、そうだ」
「ルーク、庶民服買ってきて」
「……は?」
「え? だめ?」
少しだけ首を傾ける。
ルークはため息をついた。
「……わかった」
ノエルは、満足そうに頷く。
その表情は――いつも通りに見えた。
けれど。
ほんの一瞬だけ、笑みが浅くなる。
⸻
王都の通りは、昼の熱気に包まれていた。
行き交う人々の声。
焼き菓子の甘い匂い。
どこか遠くで、子どもの笑い声が弾ける。
その中を、ルークは一人で歩いていた。
足を止めたのは、小さな服屋の前だった。
木製の看板。
少し色あせた布。
だが、並んでいる服はどれも丁寧に仕立てられている。
「……ここでいいか」
店の中に入る。
所狭しと並ぶ服の中で、ルークは足を止めた。
薄緑のワンピース。
町娘が好みそうな、柔らかな色合い。
派手すぎず、それでいて目を引く。
手に取る。
軽い。
ノエルの姿が、頭に浮かぶ。
あいつなら――似合う。
サイズは迷わない。
ずっと一緒にいた。
嫌でも分かる。
「お、兄ちゃん。いいとこ目ぇつけたね」
振り向くと、店主の女がにやりと笑っていた。
「それ、最近よく売れてるやつだよ」
ルークは、軽く肩をすくめる。
「……そうか」
女は腕を組み、じっと見てくる。
「で? 誰にだい」
一拍。
「妹かい? それとも――」
わざとらしく、口元が緩む。
ルークは、少しだけ目を逸らした。
「いや」
短く言う。
「大切な人が、買ってこいって言うんだよ」
一瞬の沈黙。
それから――
「あはははっ!」
店主が声を上げて笑った。
「そりゃあ大変だ!」
肩を揺らして笑う。
ルークは、ため息をついた。
「……ほんとにな」
けれど。
口元が、わずかに緩む。
「面倒なんだよ」
そう言ってから。
ほんの少しだけ、視線を落とす。
「……でも、可愛いんだよ」
ぽつり、と零れた。
店主は一瞬きょとんとして――
すぐに、にやりと笑う。
「はいはい、ごちそうさま」
「で、兄ちゃんの分は?」
「……あ?」
「その格好じゃ一緒に歩いたら浮くよ」
腕を組み、じろりと見てくる。
「ほら、これとかどうだい」
差し出されたのは、落ち着いた色の庶民服。
動きやすく、目立たない。
ルークは少しだけ考えて――
それを受け取った。
「……これでいい」
「最初からそう言えばいいのにねぇ」
くくっと笑う店主。
会計を済ませ、袋を受け取る。
外に出ると、また喧騒が戻ってきた。
袋を軽く持ち上げる。
中には、薄緑のワンピースと、自分の服。
「……似合うな」
誰に言うでもなく、呟く。
そして、踵を返した。
あいつのいる部屋へと。




