全部壊さなかっただけでした
それから数日。
ノエルは、ほとんどベッドから出なかった。
同じ部屋にいるはずなのに――距離がある。
ルークが声をかけても、
「……大丈夫」
短く返るだけ。背を向けたまま。
布団を頭まで被り、外の光を遮るように丸まっている。
まるで、世界ごと拒絶しているみたいに。
「少し外に出るか」
そう言っても、
「行かない」
それだけ。
部屋の中は静かだった。
軋む床の音と、わずかな衣擦れ。
同じ空間にいるのに、触れられない。
そんな距離。
⸻
さらに、数日後。
部屋の中で。
「……ふふ」
小さな笑い声が、落ちた。
ルークが、顔を上げる。
「……あは」
ノエルが、笑っていた。
けれど――どこか、温度がない。
「ねえ、ルーク」
ゆっくりと身体を起こす。乱れた髪のまま。
「聞いて」
くすくすと、笑いながら。
「ヴァルグレイス邸」
一拍。
「土、使い物にならなくしてきたわ」
ルークは、何も言わない。ただ、視線だけを向ける。
「水、かけられたでしょう?」
指先を、軽く振る。
「その時にね、魔力を流し込んでおいたの」
淡々と。
「床から、土に染み込ませて」
「少しずつ、成分を変えていったのよ」
「……大変だったわ」
ぽつり、と落ちる。
「ずっと、操作し続けるの」
「数日かけて」
「普通の植物は育たなくなるようにして」
くすり、と笑う。
「代わりに――」
ほんの少し、首を傾ける。
「雑草だけ、元気になるように」
間。
「……根の深いやつ」
その笑いは――どこか、壊れていた。
ルークは、しばらく何も言わなかった。
それから。
「……優しいな」
小さく、落ちる声。
ノエルの笑みが、わずかに揺れる。
「どこが?」
「全部壊さなかったところ」
沈黙。
ほんの一瞬だけ。
ノエルの目が、揺れた。
それだけだった。
――ほんの、わずかに。




