表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/61

会いに行くことにしました

――馬車の中。


車輪の音が、一定のリズムで揺れている。

窓の外では、見慣れない景色がゆっくりと流れていた。


ノエルは背もたれに身を預け、ぼんやりと外を眺める。

その表情は穏やかで、けれどどこか遠い。


 


「これからどちらに行かれるんですか?」


向かいに座るルークが、静かに口を開いた。


 


「ヴァルグレイス侯爵邸」


 


短い答え。


 


ルークの視線が、わずかに揺れる。


 


「実家に行かれるんですか?」


 


「えぇ」


ノエルは視線を外に向けたまま、淡く笑う。


 


「両親が会ってくれるかは分からないけれど――

妹、ルミエラに会う許可を貰おうと思ってね」


 


「なぜ?」


 


「聖女なのに、もう少し頑張りなさいって。

直接本人に言ってあげようかと思って」


 


「……絶対に違います」


 


間を置かずに返ってくる声。


 


ノエルは、ほんの一瞬だけ目を細めた。


 


「……本当よ」


 


軽く返す。


けれど、その声音はどこか柔らかさを欠いていた。


 


ルークは何も言わない。


それ以上踏み込むこともなく、ただ静かにそこにいる。


 


 


「ご両親に会うということは、暴言を受ける覚悟で?」


 


「負ける気がしないわ」


 


そう言って、ノエルは笑った。


 


――完璧な笑顔。


 


 


けれど。


 


その指先は、膝の上でわずかに力を込めていた。


 


 


沈黙が落ちる。


 


馬車は進む。


 


 


やがて。


 


ノエルがふと、小さく息を吐いた。


 


 


「……近いし」


 


ぽつり、と零す。


 


 


視線は外のまま。


 


 


「会いに行こうかな」


 


 


それが誰に向けた言葉なのか。


 


ルークは、あえて聞かなかった。


 


ただ、わずかに視線を落とす。


 


 


馬車は、変わらず進み続けている。


 


 


その先にあるものを、まだ誰も知らないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ